英国の炭鉱労働者のブラスバンドを実話に基づき描いた映画「ブラス!」(マーク・ハーマン監督、1996年)は演奏場面が素晴らしい作品だ。「アランフェス協奏曲」「ダニー・ボーイ」「威風堂々」。失業危機の武骨なオヤジたちが奏でる名曲の数々が美しく響く

 ▼音楽で問題が解決するわけではない。いい演奏をしようがコンクールで賞を取ろうが、失業や生活困窮の現実は変わらない。ラストシーンは感動的だが、後味は苦い

 ▼それでもただ、いい音を鳴らすことに尊厳をかける労働者たち。民衆の中に息づく音楽の力に心揺さぶられる

 ▼一昨日、全琉音楽祭を撮影した。小中高大学の学校音楽の粋を集めた祭典。吹奏楽や重奏、独唱など多彩な演目が披露された

 ▼楽しみなのが小中学校の学級・学年合唱だ。さまざまな環境で育つ多様な子どもたちの歌声はふぞろいだが、一つの目標に向かう真剣なまなざしに心洗われる思いがする。技術を超えた清らかな歌の力に、思わず目が潤んでしまう瞬間がある

 ▼戦後10年目の草創期には聴衆が押し寄せ、会場のガラス戸を割るほどの熱気だったという。60回の今年は会場全員で宮良長包作曲「えんどうの花」を合唱した。歌詞をそらんじている人も多い。沖縄の民衆の中に生まれ、多くの人の思いに育てられた音楽祭だとあらためて実感した。(田嶋正雄)