2017年(平成29年) 10月24日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(58)「共謀罪」 「テロ対策」は政府のうそ 不十分な報道も責任

 6月15日、テロ等準備罪法(いわゆる共謀罪法)が成立した。法務委員会での採決を省略し、中間報告から本会議で採決する、異例の手続きだった。確かに、国会法56条の3は委員会採決の省略を認めている。しかし、これはあくまで例外的な措置として認めているのみだ。今回の採決は、歴史的暴挙と批判されている。

 なぜ、与党は採決を強行したのか。それは、法案の問題があまりにも大きく、それが国民に、知れ渡る前に採決したかったからだろう。

 政府は、今回の法案は、(1)テロ対策と(2)国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のために必要だとした。

 しかし、(1)2014年に改正された「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律」(テロ資金提供処罰法)により、資金準備や下見といったテロの準備行為は包括的に処罰対象となっている。共謀罪法がテロ対策に付け加える内容は皆無だ。また、(2)条約締結のための立法ガイドを執筆したニコス・パッサス教授ら専門家は、日本は現行法のままでもTOC条約を締結できると指摘していた。

 仮に、条約締結のために国内法の手当てが必要だったとしても、立法上の対応をするにしても、暴力団対策法等を修正すれば足りたはずである。なぜならTOC条約は、テロ対策ではなく、マフィアや暴力団などの金銭的・物質的利益を目的とする犯罪組織を対象とするものだからだ。

 このように、政府の示した立法の必要性は、いずれもうそだった。このことは、専門家の間では早い段階で判明しており、京都大学大学院の高山佳奈子教授は、4月25日の衆議院法務委員会で、参考人として明快に政府のうそを指摘している。国会も、当然、このことを把握していたということだ。

 ところが、メディアは、政府のうそをうまく伝えることができなかった。

 まず、問題だったのが、多くのメディアが、今回の法案の是非を「テロ対策VS監視社会の危険」という図式で論じたことだ。この図式で論じれば、「ある程度、監視社会になっても、テロ対策のために仕方がない」という理由で、政府案に賛成する人が出てくるのもやむを得ない。しかし、今回の法案は「テロ対策」とはそもそも関係がない。この図式そのものが、世論を誤解させたと言ってよい。

 また、メディアに登場する法案賛成派の有識者の多くは、審議の最終段階まで、テロ対策に必要だと主張し続けた。しかし、既存のテロ資金処罰法では足りない理由を具体的に述べる者はほぼ皆無だった。そうした不勉強な人物を「有識者」と扱ったメディアの責任は重い。

 メディアや有識者が論ずべきは、「テロ対策という政府のうそを許すか否か」だった。この図式で議論をすれば、多くの人が政府のうそに気づき、法案反対の声はより高まっていったはずだ。政府・与党は、それが分かっていたから、ウソがばれる前に、採決を急いだのだろう。

 政府は国民に対して誠実でなければならない。共謀罪法を許容すれば、政府はますます平気でうそをつくようになるだろう。今後も、共謀罪法の廃止、修正にむけて、真剣な努力が必要だ。(首都大学東京教授、憲法学者)

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