過激派組織「イスラム国」による邦人人質事件以降、日本政府はイスラム国への対応をめぐって、軍事作戦への参加を否定し、難民支援など人道支援に徹していることを繰り返しアピールする必要に迫られてきた。

 安倍晋三首相は29日の衆院予算委員会で「人道支援などの非軍事的分野で積極的に貢献し、国際社会の一員として当然の責務を果たしていく」との方針を改めて強調した。

 だが、「積極的平和主義」に基づく安倍首相の外交戦略には危うさもはらむ。

 東大名誉教授の板垣雄三氏は、イスラム国が安倍首相のイスラエル訪問に脅迫の時機を合わせたことに触れ「首相は思慮不足だった」と直言している(1月24日付3面)。

 「日本人2人が拘束下にあるのを知りながら『イスラム国の脅威を食い止める』日本の役割をアピールし、乗じる隙を相手に与えた」と指摘。武器輸出三原則の撤廃などによって安倍政権とイスラエルの関係が強化されている状況を挙げ「中東での『非軍事の人道支援』の強調も国際的説得力は弱い」と説いている。

 安倍政権は2013年、周辺国と軍事衝突を繰り返すイスラエルが導入を計画するF35の日本製部品の輸出に関して、武器輸出三原則の例外扱いにする、と発表。歴代政権が半世紀近く継承してきた同原則も昨年4月に撤廃し、原則禁輸としてきた政策の転換に踏み切った。新たな防衛装備移転三原則は、日本と安全保障面で関係のある国との防衛装備品の共同研究や開発を条件付きで認めている。

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 安倍内閣はまた、政府開発援助(ODA)の基本方針を定めた現行のODA大綱に代わる「開発協力大綱」を近く閣議決定する方針だ。

 新大綱には、従来制限してきた他国軍への支援を、非軍事分野に限って解禁する内容が盛り込まれる。13年に定めた国家安全保障戦略で「積極的平和主義に基づきODAを戦略的に活用」すると明記したのを受け、安倍政権下で議論が進められてきた。

 集団的自衛権の行使容認の閣議決定を受けた新たな安全保障関連法案も近く与党協議が開始される。昨年7月の閣議決定で「非戦闘地域」の考え方が廃止され、自衛隊の活動範囲や活動内容を拡大する可能性が指摘されている。

 安倍首相は、25日のNHKの討論番組で「後方支援は武力行使ではない。国連決議がある場合でも、そうでない有志連合の場合でも憲法上は可能だ」と述べている。

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 こうした政策はいずれも、国際紛争の助長につながる懸念を拭えず、戦後日本の「平和国家」としての歩みを根本から覆しかねない。

 東アジアの不透明な政治情勢や国際テロの脅威にどう立ち向かうかは避けて通れない課題だ。が、軍事に軍事で対抗するだけでは根本解決を図れないのも事実だ。戦後の日本外交の基礎である「平和主義」の原則を貫くことが日本の国際的地位を高め、国際秩序の安定寄与にもつながる。その現実を、政府も国民もいったん立ち止まり、再認識する必要があるのではないか。