あまりの残忍、非道な行為に言葉を失う。「どうか無事でいてほしい」との願いは早朝のニュースで打ち砕かれ、日本中に驚きと、強い憤りと悔しさが広がった。

 中東の過激派「イスラム国」を名乗る組織に拘束されたフリージャーナリスト後藤健二さん(47)が殺害されたとみられる動画がインターネット上に公開された。湯川遥菜さん(42)の殺害に続き、再び蛮行が繰り返された。

 一方的な要求を突きつけ、何の罪もないジャーナリストの命を奪ったことは、国際人道法に反する行為であり、いかなる理由があろうと許されるものではない。

 後藤さんは、これまで紛争地帯のシリアやイラクにたびたび渡航し、取材活動を続けてきた。後藤さんのまなざしは、紛争地帯に生きる普通の人びと、特に子どもたちに向けられた。シリアでは長期化する内戦で、多数の一般市民や子どもが犠牲となり、多くの難民が苦境に陥っている。

 帰国後は、講演会や児童書の出版などを通して、紛争地の子どもたちの危機的な状況を伝えてきた。

 後藤さんは、先に拘束された湯川さんを救出するためにあえて危険な地域に足を踏み入れたと言われている。

 日本国内だけでなく、世界各地の関係者から後藤さんの解放を望むメッセージが発せられたのは、正義感の強い人柄やこれまでの活動が高く評価されていたからだろう。

 常に弱者の側の視点に立った後藤さんが、伝えたかったのは何だったのか。あらためて重く受け止めたい。

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 日本政府は湯川さんと後藤さんが拘束されたという情報を昨年の段階から把握し、対応に動いていたことを国会審議の中で明らかにした。

 安倍晋三首相が先月の中東歴訪で「イスラム国」対策のための人道支援を表明したことに、犯行グループは「進んで十字軍に参加した」と見なし、日本政府を批判した。

 日本人2人が拘束されている時に有志連合支援を打ち出したことが果たして適切だったのかどうか。有志連合のメンバーとして空爆に参加したヨルダンに現地対策本部を設置したことが適切だったかどうか。政府のこれまでの対応を国会で明らかにし検証することが求められる。

 犯行グループは、後藤さん殺害を伝える動画で、日本国民を「場所を問わずに殺害する」と脅迫し「日本にとっての悪夢が始まる」と警告した。海外の日本人や日本企業の安全を確保する対策を早急に講じなければならない。

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 安倍首相は「テロリストたちを決して許さない」と強く非難した。国際社会に恐怖を与え暴力で影響力を拡大しようとする「イスラム国」に対抗するには、国際社会が足並みをそろえることが重要だ。

 ただ、有志連合に加わって、軍事分野の支援に乗り出すのは「平和国家」の国是を放棄するものであり、人道支援などの非軍事分野に限定して役割を果たすべきだ。

 今回の日本人殺害事件は、日本の外交の分岐点になる可能性があるだけに、国会で冷静で深い議論が求められる。