ドイツのワイツゼッカー元大統領が1月31日、94歳で死去した。戦後40年の1985年、「荒れ野の40年」と題して発信した議会演説は特に有名だ。「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目になる」の一節は今も引用されることが多い

 ▼ナチスのユダヤ人虐殺などの人道犯罪に対し、全国民で責任を負わなければならないと呼び掛けた。戦後生まれの若者にも自国の「負の歴史」からは自由になれないと訴えた

 ▼過去を直視し、反省する真摯(しんし)な姿勢が欧州各国と和解する上で基盤となった。韓国や中国との関係が悪化する日本とは対照的に映る

 ▼99年には沖縄を訪れ、名桜大の学生らと対話集会で意見を交わした。「異なる文化や宗教への寛容さが重要だ」と説いた。「自分に向かって話し掛けられているみたいだった」「僕たちに期待してくれている」。高揚した学生らの言葉が本紙紙面に記録されている。当時の学生たちは訃報にどう接しただろうか

 ▼2月1日朝、過激派組織「イスラム国」の凶行が報道された。イラク戦争から続く憎しみの連鎖が止まらない

 ▼ワイツゼッカー氏の歴史的演説は過ちから学ぶ大切さを訴え、共生、自由、平和の尊さに触れて結ばれる。暗いニュースが多い時代、これからもさまざまな人々の指標となるだろう。言葉の一つ一つを今こそかみしめたい。(田嶋正雄)