この国は「新たな戦前」に向かっているのではないか。そんな思いを抱かせる動きである。

 文民統制(シビリアンコントロール)は、政治が軍事に優越するという民主主義国家の基本原則である。それを支える仕組みの一つである「文官統制」が撤廃されようとしている。

 文官統制は、防衛大臣を支える官僚(背広組)が、自衛官(制服組)より優位を保つという考え方で、戦前に軍部が暴走し無謀な戦争に突き進んだ反省からできた仕組みである。

 防衛省は、この根拠となっている法律の条文を見直す。この一件に限らないが、数の力で安全保障政策を変えようとするやり方は危険である。

 文官統制の根拠は防衛省設置法12条だ。防衛大臣が統合幕僚長や陸海空の幕僚長に指示を出したり、監督をする際に、背広組の官房長らが「大臣を補佐する」と定めている。大臣が自衛隊を統括することを背広組が補佐することで政策的見地からチェックする機能を持たせていた。

 改正案では、制服組と背広組がそれぞれ対等な立場で直接大臣を補佐できるようにする。これによって制服組の権限が大幅に強化されることになる。

 政府は、改正案を6日にも閣議決定し、今国会に提出する方針だ。

 背広組と制服組の上下関係を示す仕組みに対する制服組の不満はあったかもしれないが、法改正には、重大な懸念を抱く。

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 国連平和維持活動(PKO)や大規模災害への派遣などを通じ、制服組の発言力が増していることが背景にある。2009年には、背広組の参事官が予算や人事など実質的な決定を下した「参事官制度」が制服組の要求で廃止された。

 専門知識を持つ制服組を政治家が重用するようになり、背広組を通さずに政治家と直接接触する「政治将校」と呼ばれる制服組幹部も増えているという。

 元防衛事務次官で、退任後に防衛大校長を務めた夏目晴雄氏はかつて、共同通信の取材に対し「軍隊は限りなく自己増殖する恐れがある存在。抑制する力が常に働いていなければならない」と、文民統制の重要性を説き、「制服を容易に政治に直結させてはならない」と警鐘を鳴らしていた。

 戦後生まれの閣僚にそのような危機感が希薄になってしまったことが心配だ。

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 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を受け、安倍政権は、安全保障法制の整備を進めている。政府・自民党は、自衛隊の海外派遣を随時可能とする恒久法の制定や、自衛隊の活動を制限する地理的概念の撤廃などを矢継ぎ早に提案している。自衛隊の海外での活動を広げようとする前のめりの姿勢と、文官統制撤廃の動きは連動している。

 憲法9条は戦力の不保持と交戦権の否認を掲げている。安倍政権が進める安全保障政策の大転換は、9条を前提とした「平和国家路線」からの大きな逸脱である。