2010年の改正臓器移植法施行を前に、県内の病院で脳死下での臓器移植シミュレーションを取材した。厳正な手続きが必要な脳死判定、慎重かつ迅速な摘出手術や1分1秒を争う搬送など、一つ一つの行為に緊張感が伴った

▼あれから5年、県内で脳死判定された30代男性の五つの臓器が8日、全国に届けられた。大切な家族の死と直面する遺族、生きるためにいちるの望みをつなぐ患者、双方の心情に命の重さを痛感する

▼法改正で、本人の拒否がなく、遺族の意向があれば脳死下の移植が可能となり、当時、施行1カ月での国内初の臓器提供が話題となった。県では今回が初となったが、少しずつ関心は高まっていくだろう

▼改正前に取材した女性は、夫が生前「俺に何かあれば、これ」と見せてくれたドナーカードが探せず脳死下を断念。臓器提供数の限られる心停止後を選択し「お父さんは人を助けたんだよ、と子供に伝えたい」と泣いた

▼今回も、男性の“生きた証し”は残された時間を削りながら移植を待ちわびた人々の元に、パトカーで先導され大切に守られながら届けられた。まさに命と命をつなぐリレーだ

▼「死生観」はそれぞれあろうが、死してなお人を救うことの尊さを否定はできまい。そしてその事実は、これからを生きる人々を支えていくに違いない。(儀間多美子)