司法が原発の安全性に異議を唱え、全国で初めて、再稼働を差し止める市民目線の判断を示した。

 原発回帰に突き進む政府・自民党、電力会社に対する警告の意味を持つだけでなく、東京電力福島第1原発事故を風化させるなというメッセージでもある。これまで「原発安全神話」の一翼を担ってきた司法の自己反省とも受け取れる内容だ。

 福井地裁(樋口英明裁判長)は、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めを求める住民の訴えを認め、再稼働を禁じる仮処分を決定した。

 仮処分決定は訴訟の判決と違って直ちに効力を持つため、正式な裁判で仮処分決定を覆す判決が出ない限り、再稼働は事実上不可能となる。

 関電は「とうてい承服できない」と強く反発、司法の場で争う構えだ。

 高浜3、4号機は今年2月、新規制基準に基づく原子力規制委員会の安全審査に合格したばかり。安倍政権は「世界最高水準の規制基準」だと評価し、早期の再稼働を目指す政策を進めていた。

 決定は、原発の規制基準について「適合していれば万が一にも深刻な災害は起きないといえる厳格さが求められる」と指摘した上で、「現在の新規制基準は緩やかで合理性がなく、適合しても安全性が確保されたとはいえない」と強い調子で批判した。

 原発への到来が想定される最大級の地震の揺れのことを基準地震動と呼ぶ。原発の耐震設計の目安になるものだ。決定は、この基準地震動についても疑問を投げている。

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 2005年以降、全国の4原発で5回にわたって基準地震動を超す地震が起きており、「想定を超える地震が来ないとの根拠は乏しい」と決定は指摘する。さらに、基準地震動に満たない地震であっても、主給水ポンプなどの破損で冷却機能が喪失し、重大な事故が生じる危険性がある、とも述べている。

 今回の決定で新規制基準をめぐる原子力規制委員会と政府の見解のずれも浮き彫りになった。

 規制委の田中俊一委員長は、高浜原発について「稼働に必要な条件を満たしているかどうかを審査した。イコール事故ゼロではない」と述べ、審査を合格すれば安全だとする考え方を否定する。これに対し、政府は新規制基準に適合した原発を安全が確保されたと見なし、順次、再稼働させる方針だ。司法が待ったをかけた意味は大きい。

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 仮処分決定について菅義偉官房長官は、原子力規制委員会の審査に合格したことを取り上げ、「大丈夫だと判断された。(再稼働は)粛々と進めていきたい」と語った。

 新基地建設問題で封印したはずの「粛々と」という言葉はどうやら、政府の意に沿わない結果が出たときに、それでもやるんだという意思を示すために、使うものらしい。

 権力の乱用を防ぎ国民の権利と自由を保障するためには、立法・司法・行政の相互抑制が欠かせない。今回の仮処分決定は、三権分立の意義をあらためて考えさせる。