以前、風邪をこじらせた後に先輩宅を訪ね、しゃべりすぎて声が出なくなったことがある。高熱で喉が炎症を起こしていたのか、いくら声帯を震わせても全然音にならず、軽いパニックに陥った。「落ち着いて」と出してくれた温かいお茶を飲み、早々に帰宅した

 ▼語り、笑い、怒り、歌い…、そんな当たり前の日常が、ある日を境に一変する。声を生業にする人の身に降りかかれば、衝撃はどれほど大きいことか

 ▼数々のヒット曲を生んだ人気歌手、つんく♂さんが先日、喉頭がんで声帯を摘出した。声を奪われたミュージシャンの絶望を想像すらできない。だが母校の大学の入学式で後輩に送ったメッセージは素晴らしかった

 ▼「こんな私だから出来る事、私にしか出来ない事を考えながら、生きていく」。恐怖を振り切り新たな人生を歩む決意、しっかり前を見つめる姿勢に後輩は勇気づけられただろう

 ▼今やがんは身近な病とはいえ、宣告されれば足元が崩れ、暗闇に突き落とされる。本人にしか分からぬ苦しみから抜け出し、生への希望を取り戻すことが、病に打ち勝つ第一歩だ

 ▼県内でもがんを生き延び、第2、第3の人生をスタートさせた人はたくさんいる。たとえ何かを失っても、そこから新たに手に入れるものが必ずあるはず。声なき音楽家の活躍を楽しみにしたい。(儀間多美子)