政府は29日午前6時2分、全国瞬時警報システム(Jアラート)で北海道など12道県にミサイル発射の情報を伝えた。

 テレビが一斉に「国民保護に関する情報」を流し始める。「ミサイル発射。ミサイル発射」「頑丈な建物や地下に避難してください」

 事前通告もせず不意を突いて発射した北朝鮮の弾道ミサイルは、北海道の襟裳岬上空を通過し同岬の東約1180キロの太平洋上に落下した。

 北朝鮮による弾道ミサイル発射は今年13回目。ミサイルが日本上空を通過したのは今回を含めこれまでに5回目である。あまりにも異常だ。

 国連がこぞってミサイル発射を非難し、重い制裁を決議しているにもかかわらず、北朝鮮が挑発行動を繰り返すのはなぜか。

 さまざまな論評がメディアにあふれているが、北朝鮮からの情報が乏しく、日米政府も外交の機微に触れる説明を避けているため、隔靴(かっか)そうようの印象はぬぐえない。

 私たちは今、日米韓と北朝鮮が、核装着可能な巡航ミサイルや弾道ミサイルで対峙(たいじ)しあう「ミサイルの時代」に生きている。

 大陸の東側に弓状に連なる日本列島の住民にとって「ミサイルの時代」の安全保障を軍事面だけに頼ることはできない。

 Jアラートをめぐる各地の混乱がそのことを物語っている。

 避難せよとJアラートは呼びかけるが、避難する時間はほとんどない。

■    ■

 政府は、レーダー情報などから日本に落下する可能性がないと判断し、自衛隊法に基づく破壊措置は行わなかった、と説明している。

 だとすれば政府はなぜ、Jアラートで、頑丈な建物や地下への避難を呼びかけたのだろうか。非常用持ち出し袋を背負って自宅を出たものの、どこに逃げたらいいのか分からず戸惑った住民もいたという。

 ミサイルは発射からおよそ8分で日本上空を通過しており、住民が避難場所を探しているときには洋上に落下していたことになる。

 北海道えりも町や秋田県大潟村、山形県新庄市などでは、Jアラートと連動して住民に情報を伝える防災行政無線が作動しなかった。

 ミサイル発射から洋上落下までわずか14分。Jアラートの速報から日本上空通過まで約4分。前触れもなしに突然、発射された場合、避難するのは難しい。

■    ■

 「今は対話の段階ではない。圧力を強化すべき」だと政府は説明する。米国は時々の情勢に応じて「圧力」と「対話」という言葉を使い分けるが、日本政府は圧力一辺倒のように見える。

 国連の安保理決議に反して挑発を繰り返す北朝鮮への圧力の必要性は認めるとしても、その先にどのような出口戦略を描いているのか、肝心な点が見えないままだ。

 「核保有は認めないが、北朝鮮の体制は保障する」という考えも浮上している。圧力だけではなく、事態打開の具体策を模索するときだ。