人の命を預かる「医者」という職業は極めて特殊で尊い。生死のはざまで働き、命という大きな荷物を背負う彼らの姿は、さまざまな物語を創造させている。が、現実はきっと、もっと壮絶なのだろう。実在した女医をモデルに描かれたこの真実の物語は胸が苦しくなるほど残酷だった。

「夜明けの祈り」の一場面

 舞台はポーランドのとある修道院。第2次大戦末期、ソ連兵たちにより、何人もの修道女たちが院内で暴行を受けた。忌まわしい記憶に苛まれまれ、体に宿した命に戸惑い、これが神のおぼしめしなのか?と苦しむ修道女たち。神に仕える身だからこそ表沙汰にできず、自らと胎児の命の危機に、祈ることしか許されなかった。そこへ手を差し伸べたのがフランス人女医・マチルド。信仰のおきてよりも命を優先し、命を救い続ける彼女の存在はこの物語の唯一の光であり、気高く尊い。(桜坂劇場・下地久美子)

 ◇桜坂劇場で上映中