県立6病院は、過去2年にさかのぼり、医師などの時間外勤務未払い分の支払いを始めている。対象は6病院で延べ830人、未払い額は約18億6千万円に上る。復帰直後の内部通知に基づく慣例として、主に救急当直医などの割増賃金が低く抑えられてきた。労基署の是正勧告により、長年の悪癖が明るみに出た形だ。

 公立病院の時間外手当を巡っては、他県でも「宿日直」として安く運用するなどの実質的な未払いが後を絶たない。こうした未払いの背景にあるのが、救急や高度医療、低所得者の受け入れなど、いわゆる「不採算診療」を担う公立病院独特の運営の厳しさだ。地域の医療ニーズに応えようとすればするほど、国の診療報酬ではまかなえない矛盾が生じている。

 同時に、一人の医師が長時間働かなければ、診療体制そのものを維持できないという日本の公的医療の課題も露呈している。

 高度医療を担う国立循環器病研究センター(大阪府)が、勤務医や看護職員の時間外労働を月300時間まで可能にする労使協定(三六協定)を結んでいることが分かった。弁護士による主要病院を対象にした情報公開請求で判明したもので、府内のほかの病院も100時間前後の協定を結んでいた。

 国の過労死ラインが「時間外労働1カ月100時間、または2~6カ月の月平均80時間」ということを鑑みれば、センターの協定は常軌を逸している。

■    ■

 厚労省によると、日本の病院の常勤医師の月平均勤務時間は173時間で、ドイツやフランスの医師の平均労働時間の1・4倍。ほかの職業と比べても、週当たり60時間以上働く人は国内で平均14%だが、勤務医は42%と最も多くなっている。

 自己研さんと診療の境目が曖昧なことから、勤務医の待機や呼び出しは「労働」と見なされないことが少なくない。原則として診療を拒めないとする「応召義務」を理由とした、医療労働の聖域化も影響している。

 その結果、長時間労働による医師の過労死が相次いで発生している。今年に入ってからも、新潟市民病院の女性研修医や、都内の総合病院の男性研修医の自殺が過労死と認定された。女性の月平均時間外労働は187時間。男性は自殺する前の半年間、月に143~208時間残業していた。

■    ■

 政府は、月100時間未満の上限規制を盛り込んだ「働き方改革実行計画」をまとめたが、医師は「応召義務」を根拠として適用の5年猶予が認められた。

 しかし勤務医の過酷な実態を見れば、時間外労働の上限適用は待ったなしだ。医師が心身に不調を来せば、医療の安全は守れない。

 人口千人当たりの医師数が2・3人で、OECD加盟29カ国中26位と少ない日本。地域医療が、勤務医の長時間労働や、低い手当によって成り立っているという現状に、社会全体で向き合う時期が来ている。