職場が、醸し出す雰囲気がある。ある会社は訪ねる度に暗かった。決して節電のために照明を落としているせいではない

▼従業員は客が来てもすぐに対応せず、社内はしーんとしていた。言葉は丁寧だが表情に乏しく、動きは遅い。当時、業績は悪くなかったのだが、社長は数年後に辞めた

▼この人がいた職場は、明るかったに違いない。元糸満署長の真栄城毅さん(62)。女装した芸で宴会を盛り上げる若手サラリーマンは珍しくないが、トップ自ら演じたり、同僚の祖母のトゥシビー祝いに招かれ披露したりする人は、そういない

▼警察は役所の中でも上下関係が厳しい階級社会。上司の長い説教は苦痛だが、一般の会社でも止めるのは至難の業だ。そんなとき、真栄城さんは天井で鳴いたヤモリに向かって「バカヤロウ! 今大事な話をしているんだぞ!」と一喝した

▼セクハラに居合わせたときには、上司の尻に焼き鳥の串を刺して痛い目に遭わせ、女性を逃がしてやった。エピソードは単なる芸達者ぶりやお笑いにとどまらない。人を傷つけないユーモアには正義感もにじむ。そして、上にもひるまない目線の定位置がある

▼「どうせ難儀するなら、笑ってしたい」。退職後、がんで胃を全摘した真栄城さんの仕事哲学が心に染み入る。芸をまねるのは無理だが、哲学なら倣える。(与那嶺一枝)