2017年(平成29年) 12月12日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(64)トランプ政権のDACA撤廃 移民政策、十分な議論必要

木村 草太
木村 草太(きむら そうた)
憲法学者/首都大学東京教授  

 1980年横浜市生まれ。2003年東京大学法学部卒業し、同年から同大学法学政治学研究科助手。2006年首都大学東京准教授、16年から教授。法科大学院の講義をまとめた「憲法の急所」(羽鳥書店)は「東京大学生協で最も売れている本」「全法科大学院生必読書」と話題となった。主な著書に「憲法の創造力」(NHK出版新書)「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)「未完の憲法」(奥平康弘氏と共著、潮出版社)など。
ブログは「木村草太の力戦憲法」http://blog.goo.ne.jp/kimkimlr
ツイッターは@SotaKimura

 トランプ政権が9月5日、DACA(Deferred Action for Childhood Arrival 「幼少期に米国に到着した移民への延期措置」)の撤廃を発表し、議論を呼んでいる。

 不法移民の中には、幼い子どもを連れて入国・在留する人もいる。そうした子どもたちの多くは、アメリカを出たこともなく、国籍国の公用語も話せないまま成長する。しかし、正規の滞在資格を持っていないから、特別な事情がない限り、見つかれば国籍国に強制送還される。

 こうした子どもたちの強制送還を防ぎ、就学・就職を可能にするため、オバマ政権は2012年、DACAを大統領令で定めた。きちんと教育を受けていること、重罪を犯していないことなどの条件を満たす不法移民の子は、2年間、強制送還の執行を猶予するものである。この制度の対象となる人は、現在、全米で80万人にも上るという。

 DACA撤廃は、あまりにも酷で、オバマ前大統領も強く抗議している。この問題をどう考えるべきか。

 まず、国際法的な原則を確認しよう。主権国家制度の下では、各国は、国籍をもつ者には、入国・在留を認め、基本的人権をはじめとした権利も保障しなければならない。他方、国籍を持たない者に、どのような条件で入国・在留を認めるかは、その国の政策的判断に委ねられる。際限なく外国人を受け入れれば、国家のキャパシティーを超えてしまうからだ。ただし、切迫した事情がある難民や、そもそも滞在する国を持たない無国籍者については、難民条約などに基づく特別の対応が求められる。

 こうした原則を踏まえると、不法移民の子どもの在留を認めるか否かは、アメリカ合衆国の政策判断に委ねられることになろう。では、その政策判断をするのは誰か。

 DACAは大統領令に基づくもので、連邦議会制定の法律による根拠はない。このため、「DACAは大統領の越権行為であり違憲だ」との批判もあった。16年4月、DACA拡大の差し止めを求める裁判では、連邦最高裁の判断が4対4に分かれ、DACA拡大を差し止める高裁判断が維持された。その際、連邦最高裁は、大統領令が合憲だとは明示しなかった。

 オバマ前大統領も、この問題は意識しており、議会に立法を求めてきたが、制定には至らなかった。ただ、連邦議会も、DACAを排除し、即座に対象者を強制送還するような立法をしたわけでもない。つまり、制度を消極的に支持してきたとも言える。

 今回、トランプ大統領は、DACA撤廃に6カ月の猶予を付し、その間に議会が決断するよう求めた。移民政策は国家の重要政策なので、国民的な議論をして、議会で決着をつけるというのも、民主主義国家らしい方法だろう。より多くの国民が結論に納得できることに期待したい。

 もっとも、国民の納得には、十分に議論が尽くされることが必要だ。どちらかが数の力で押し切れば、国民の分断を悪化させることになるだろう。「6カ月」という期間の短さには心配もある。

 移民への対応は世界的な関心事であり、アメリカでの議論は、世界中の移民政策に影響を与え得る。今後の議論を注視したい。(首都大学東京教授、憲法学者)

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