安倍晋三首相が政権の新たな目玉政策と位置付ける「人づくり革命」の議論が始まった。

 柱となるのは教育の無償化、高齢者雇用、社会人が学び直す「リカレント教育」などである。

 有識者らでつくる「人生100年時代構想会議」が、年末までに中間報告をまとめ、来年6月をめどに基本構想を策定する。

 家庭の経済事情に左右されず誰もが希望する教育を受けられる社会、幾つになっても挑戦できる社会をという問題意識は共有する。

 だが釈然としないのは、政権のメインスローガンが毎年のように替わり、何をしたいのか目指すべき社会がよく見えないことだ。

 安倍政権の看板政策は、「女性活躍」「1億総活躍社会」「働き方改革」と変遷してきた。

 女性活躍では2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を掲げ、1億総活躍では希望出生率1・8、介護離職ゼロを設け、働き方改革では正社員と非正規労働者の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金」の実現などを目指してきた。

 看板は増えるが、どれも道半ばで、担当相や会議が乱立し、政策効果の検証も不十分である。

 新たに打ち出した人づくり革命も、示されたメニューは、働き方改革や1億総活躍と重複するところが多い。

 ネーミングが大仰な分、言葉だけが躍っている感は否めない。

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 焦点の教育無償化は、幼児教育・保育の財源として「こども保険」の創設や企業拠出金の活用を検討するという。大学進学の負担軽減では、返済不要の給付型奨学金拡充のほか、授業料を国がいったん支払い、卒業後に収入に応じて返済してもらう「出世払い」方式の導入が課題となっている。

 文部科学省の試算では、大学の無償化には約3兆1千億円の追加費用が必要で、幼児教育なども含めると必要財源は4兆円を超える。

 経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、日本は教育機関への公的支出の割合が最低水準だ。特に見劣りしているのが、高等教育と幼児教育への支出である。

 教育の無償化に前向きな姿勢を示す安倍首相のリーダーシップの下、施策と財源確保の議論をぜひ進めてもらいたい。

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 政権が人づくり革命を新たな看板に掲げたのは、加計(かけ)学園問題や「共謀罪」法を巡る国会運営などで内閣支持率が急落した直後だった。

 安全保障関連法の衆院採決強行後に支持率が低下し、1億総活躍を打ち出した時とよく似ている。

 安倍首相は28日召集の臨時国会冒頭にも衆院を解散する意向という。新たな政策を選挙の看板にとの思惑もあるかもしれない。

 しかし国民が求めているのは豊かな未来につながる具体的な施策である。支持率回復や選挙目当てのスローガンはいらない。