◆沖縄そば29杯完食を目指す物語です。

 前回(1~3杯目4~6杯目7~10杯目11~15杯目16~20杯目21~24杯目25・26杯目)の続き。

◆ついに「この日」を迎える 

ずらりと並ぶ肉球スタンプ

時は9月1日。言葉ではうまく表せない、うれしいような寂しいような。何ともいえないそんな気持ちでこの日を迎えた。

 7月26日にこの旅をスタートさせて1か月と6日、ひたすらそばを食べ続けた。初めはほんの軽い気持ちだった。

 「おもしろそう。(女性は)誰もやらないかもしれない、いや達成できないかも。そして、私ならできるかもしれない」

 そんな思いで始めたこのスタンプラリー。飽きっぽい性分の私が、どこまでできるのかも試したかった。そしてここまできた。

 昨日からそうだが、仕事中も上の空。残すところあと3杯なのだから、「この1週間で、YOUゆっくり食べちゃいなよ」という悪魔のささやきが何度も浮かんでは消えてゆく。しかしながら、闘牛士の赤マントを目指す猛牛ばりに、私はもう、そばしか見えない、誰の声も聞こえやしないのだ。

【27杯目】月見の美しさと、優しいお出汁…「EIBUN」

 午後3時前。昼のバイトが終わり、昨日訪ねると定休日だった「Okinawa Soba EIBUN(エイブン)」へ。

 ゴールがあるから頑張ってきた私と、まだゴールしたくない私との葛藤。ほんのり感じる喪失感に、店へ向かう自転車のペダルを漕ぐ足も重い。そう、私はいとしいあの人(沖縄そば)へ会いに行く生活を卒業するのが怖いのだ…。

外観からカフェっぽい「EIBUN」

 EIBUNは入り口や窓からうかがうと、お客さんでにぎわっている。スタンプラリー終盤は入る前から店内を一望でき、どの席に座るか心積もりできた公設市場ゾーンに慣れていたので、店舗型の入った瞬時に決める俊敏さが足りず、迷ったあげくに座りたかった窓際ではなくカウンターに収まる。「つまらない席の選び方だなー」と反省しつつ、メニューを手にする。

 特製ジュレダレぶっかけまぜそば(800円)や牛もやしそば(850円)、炙り軟骨ソーキそば(900円)…。目移りしすぎて、席取りに続きメニューも決められない私に、店員のおねいさんが「ジューシーが売り切れたので定食はできず、三枚肉も全部出たので沖縄そばも売り切れ」と教えてくれる。さて、どうしようと悩む私の目に「月見」という文字が飛び込む。そう、私は卵が好きなのだ。「特製ジュレダレに決めるでしょうよ」と来店前から誰しもにささやかれ、私自身もそう自覚して来たのに、予想もしなかったパスがきた。

 「卵はう・ら・ぎ・ら・な・い!!」

 そうだ、卵に裏切られたことはこれまで生きてきて一度もなかった。だから私はこう告げる、「月見賄い肉そばを」と。卵を指す「月見」にプラスして「賄い」という文字もいい。賄い…そこには、店員さんのみぞ知る秘密と味わいがある。私はそれを確かめるべく、特製ジュレダレには次回お目にかかることを心の中で約束した。

私の期待を裏切らない卵と肉、そしてスープです!

 水色のきれいなおわんのなかに、細めの緩い縮れ麺と、いい色に染まり刻まれたお肉。そこに浮かぶは主役のお月さまならぬ卵さま。周りをネギが彩り、見るからに美しい。頭上に掲げられた黒板にはスープの秘密が書かれている。最後まで飲みきれるスープを目指し、豚ガラを8時間ゆっくりじっくり煮込み続け、かつお節・昆布の一番出汁と合わせた無化調(化学調味料を使わない)の優しいスープとある。店内の照明や外の太陽の光すら反射する透明なスープをゆっくり口にすると、どの味も互いに邪魔をせず、ごくごくと飲めるあっさりとした優しい味が待っていた。

明るい店内に、気持ちも軽やかになる

 EIBUNのBGMはファンクミュージックで、民謡かテレビから流れる音がBGMだった今までのお店とはちょっと異なる。おしゃれな店内を見渡すと観光客らしきカップル、常連ぽいおじいさん、おしゃれなおねいさんと客層もさまざま。「ここはカフェなのかしら?」とそわそわするうちに、月見賄い肉そばがやってきた。

 きょうはあと2杯食べる予定があるが、焦らない焦らない。味の染みた肉に卵を溶いて新しい味の融合を試みながら、のんびりそばを堪能した。小さく切った島どうふに、もずくをかけた箸休めが付いているのもうれしい。「島どうふを生で食べたのはいつぶりかしら」と思いながら、ふた口ほどで食べてしまう風情のない自分が嫌になる。

 食べながらもメニューのチェックを忘れない。麺がフーチバー(よもぎ)やイカスミ麺に変更でき、トッピングにゆしどうふやアーサ、パクチーがあったことに気づき、少し悔やんだ。歳を重ねるにつれて、見ているようで見ていなかったり、字面で思い込んだりが増えてくる…。

 そんな私をよそに、ひとつ席を空けて座るおじさんは、慣れた様子でしっかり麺をフーチバーに変更。私もああなりたいと願いつつ、月見賄い肉そばのスープを一滴も残さず飲み干し、27杯めを完食した。

 きっと売り切れていなければ、ジューシーを食べたくて定食にしていたに違いない。「ほかのメニューへの夢や妄想は次回の来店につながる」。そう自分に言い聞かせ席を立つ。
 お会計が終わり、ゆっくる新聞を取り出す。レジのおねいさんの「すごいですねー」の言葉に店主のおにいさんが反応、奥からニコニコしながら「2周目でまた戻ってきてね」と声をかけられる。笑顔で返しつつ、「次こそは麺も変更するし、ジューシーも食べますよ」と心に決めて、おしゃれなそば屋EIBUNを出た。

〈筆者・たまきのそばデータ〉
・店名:Okinawa Soba EIBUN(那覇市壺屋1-5-14、電話098-914-3882)
・メニュー:月見賄い肉そば750円(3杯食べると心に決めていたため、お昼に弁当を食べなかったたまきが、ジューシーも食べたかったサイズ)
・雰囲気:おしゃれな店内は、おひとりさまならカウンターがベター。水はセルフサービスで、コップはガラス製からプラスチックのかわいい柄まで選べる。お箸も赤と黄の伝統的な沖縄のお箸以外にも、珍しいオリオンビール柄もあり、そこも含めて楽しめる。時間帯によっては売り切れメニューもあるので、ランチタイムより前に行くべし。