川崎市の簡易宿泊所(簡泊)で火災が発生し9人が死亡したニュースを知り、言いようのない怒りがわいた。2年前、都市の高齢化の取材で訪れたのが東京と大阪の簡泊だった

▼高度経済成長期の公共・民間の建設ラッシュは地方から都市へ大量の日雇い労働者を流出させた。入居にまとまった資金がいらず安価な簡泊は都市にあふれた彼らの住居となった

▼あれから50年近くたった今、簡泊には老いた元労働者がとどまる。居る人に共通するのは、長年働いたにもかかわらず特定の雇用者が存在しないこと。年金や健康保険制度に加入しておらず、家族・友人・職場のつながりが無いこと

▼ある男性は、転職を考えたが工事作業以外に技術や学歴も無くあきらめたという。日雇いの身では人脈も無く、若いころ出た地元の人間関係は途絶えたと話した。そんな告白に、都市集中型経済がつくる暗い影を知った

▼現在入居する多くが生活保護を受給していることから「貧困ビジネス」と形容されることもある簡泊。火災事故で明らかなように快適な住環境にはほど遠い。だがそれも無ければ住む所を失う人が大勢いる

▼それなのに公営住宅や福祉などセーフティーネットが届かないのはなぜだろう。経済成長の恩恵に預かる私たちなら、その影に生きる人々の存在を考えるべきだと思う。(黒島美奈子)