アカデミー賞作品賞などを受賞した映画「ビューティフル・マインド」(2001年)には、観賞する側に、主人公の妄想を現実のように思わせるシーンがある

 ▼古い映画を持ち出したのは、モデルとなった「天才数学者」ジョン・ナッシュ氏(86)が先日、二人三脚で歩んできた妻と共に交通事故に遭い急逝したからだ。統合失調症と闘いながら研究を深め、ノーベル経済学賞を受賞した数奇な人生を思う

 ▼統合失調症は、100人に1人の割合で思春期以降に発症するという実は身近な疾患だ。おそらく、あなたの同級生や親族、ご近所などの中にもいるはずだが、国内では理解が進んでいない

 ▼背景には、当事者が苦しむ幻覚や幻聴といった症状の分かりにくさがあるのかもしれない。その意味で、名画は主人公と見る側を同じ地平に置き、理解を助けた

 ▼ナッシュ氏は10年間入退院を繰り返したが、日本では10年以上入院している患者が4万人近くいるという。必要がないのに20年も30年も入院して老いる人もいて、入院中に亡くなる患者は年約1万1千人に上る

 ▼学究生活どころか、ごく普通の生活を送ることさえ閉ざされる現実がある。発症前の子どものころをよく知る人は、こうした状態に置かれることを喜ばないだろう。ナッシュ氏を追悼し、身近な疾患の理解を深めたい。(与那嶺一枝)