北朝鮮に拉致された後、蓮池薫さんが暮らしていた「招待所」。米国と緊張が激化した1994年、周囲の塀がどんどん高くなっていったという。兄の透さんが対談本「拉致と日本人」(岩波書店)で明かしている

▼「拉致被害者はもともと『いてはならない存在』。隠すためなのか」。勝手に拉致しておいて、邪魔になったら殺害すら想定される独裁政権下。薫さん本人は語らないが、その恐怖は計り知れない

▼再び緊張が高まる今、北朝鮮に残る被害者はどんな境遇にあるだろうか。19日、日本政府が認定する最初の拉致事件発生から40年が過ぎた。家族会が初めて「年内解決」を求めた今年もあと3カ月余り

▼ところが、「拉致問題が最優先」と言い続ける安倍晋三首相はこの時期に衆院解散を決めた。一時家族会の中心にいて接した透さんは、首相が問題を政治利用してきただけ、と冷めた見方を示す

▼対談相手の在日3世、辛淑玉さんはもっと辛辣(しんらつ)だ。「ナショナリズムを高揚させる手段として、危機を煽(あお)る道具として(中略)解決は遠ければ遠いほどいいのだろう」

▼在日の人々も勝手に「帝国臣民」にされたあげく、敗戦後は外国人として放り出された。蓮池さん兄弟と辛さんが肌で知る「国家の非情さ、国家のご都合主義」という本質は、北朝鮮でも日本でも変わらない。(阿部岳)

ルポ 沖縄 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実
阿部 岳
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