「家族のことを知ってますか」と尋ねられたら、虚を突かれたような思いに駆られるはずだ。そんな疑問に端を発した本がベストセラーになっている

▼作家の下重暁子さん(79)が、両親や兄との長年の確執などを描いた『家族という病』(幻冬舎新書)。「家族の話はしょせん自慢か愚痴」「家族写真入りの年賀状は幸せの押し売り」などと、あまたある家族本の中でも切り口は辛辣(しんらつ)。きりりとした文章の行間には計れない寂寞(せきばく)も漂う

▼過剰に支配、依存、虐待などをする「毒親」の呪縛に苦しみ、生きづらさを抱えてきた女性たちが、語り始めた再生への告白とも重なる。家族だんらんは幻想と言い放ち、個々一人一人を見よと促す

▼確かに普段、親きょうだいのことを「知っている、知らない」という尺度では見ない。意外と知らなかったと後悔先に立たないのは、亡くなってからだ。遺品を整理しているとき、家族や友人・知人の間で語り合っているとき…

▼下重さんは亡き家族宛てに何通も手紙を書いた。「分かったのは、家族を知ることは自分を知ること。私が知りたかったのは自分だった」

▼やっと、家族と自分に向き合え、心が解きほぐされた。「傷ついても愛するってことは大切だとようやく思い始めました」。傘寿を迎える作家が到達した言葉に、家族の重さをあらためて知る。(与那嶺一枝)