衆院憲法審査会で参考人の憲法学者全員が集団的自衛権行使を可能とする安全保障関連法案を「違憲」だと指摘したことに対し、政府・自民党が危機感を募らせている。

 安倍晋三首相は8日、ドイツで会見し、1959年の砂川事件をめぐる最高裁判決を引用しながら「自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛の措置を取り得ることは国家固有の権能の行使として当然のことだ」と、安保法案の「合憲」を主張した。

 9日、政府が示した見解にも、自衛のための措置を認めた砂川判決と「軌を一にする」と書かれている。

 政府は砂川判決を持ち出して集団的自衛権行使容認の論拠とするが、都合のいい我田引水の解釈である。

 東京都砂川町(現立川市)の米軍基地に入ったデモ隊が刑事特別法違反で起訴された砂川事件では、東京地裁が駐留米軍を憲法9条違反の戦力だとして無罪判決を言い渡した。その後、最高裁は戦力に当たらないとして一審判決を破棄。安保条約の違憲性については判断しなかった。

 裁判で争点になったのは駐留米軍が憲法に違反するかどうかだ。集団的自衛権を念頭に置いたものではない。実際72年には「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」との政府見解をまとめている。

 砂川判決が集団的自衛権の行使を認めている、と解釈する学者はほとんどいない。まして、事前に最高裁長官が米側に見通しを漏らしていたことが米公文書で明らかになるなど、正当性さえ疑われている判決である。

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 あっけにとられたのは5日の衆院特別委員会での中谷元・防衛相の答弁だ。中谷氏はこう言った。

 「現在の憲法をいかにこの法案に適用させていけば良いのかという議論を踏まえて、閣議決定した」

 憲法は国の最高法規と位置付けられており、憲法に違反する法律の制定は98条で認められていない。にもかかわらず中谷氏はこれを逆に解釈したのである。

 10日の委員会で答弁こそ撤回したが、集団的自衛権の行使を可能とする安保法案については「従来の憲法解釈との論理的整合性と法的安定性に十分留意している。憲法違反であるとは思っていない」と述べた。

 最高法規である憲法をないがしろにする答弁の不安定性こそが問題であり、それが法案への懸念を広げている。

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 自社さ連立政権で首相を務めた村山富市氏と、当時、自民党総裁だった河野洋平氏が、そろって集団的自衛権の行使容認を含む安保法案を批判している。議論すればするほど不備や欠陥が浮かび上がる法案を、今国会で成立させようとする政府のやり方に異を唱えているのだ。

 参考人の意見など聞く耳をもたない、と言わんばかりの政府の強引さからは国民の疑問や懸念に真摯(しんし)に答えようとする姿勢が感じられない。無理な論理を数の力で押し通そうとするのは、権力の暴走である。