ろくに学校に通えなかった母が戦地の息子に一度だけ手紙を書いた。たどたどしい字で「生きて帰ってこい」と。息子は「敵の弾飛んでこないから、また読んでいる。何度も読んで字が消えてしまった」と返した

 ▼「一筆啓上賞」で知られる丸岡文化財団が、過去に公募した「日本一小さな物語」で、大賞に選ばれた作品の一つである。原作は、かな交じりの東北弁で書かれている。戦時下のつらさを忍び、大切な相手を慈しむ親子の思いが浮き立つ往復書簡であった

 ▼自衛隊の海外での活動範囲を広げる安保法制の国会論戦で、政府は派遣先で隊員が直面する危険の増大を認めない

 ▼政府は「最小限にします」などと、現場のリアリティーを伴わない答弁が続く。「これでは隊員がかわいそうだ」と嘆きがあがる

 ▼憲法学者も法案を憲法違反と批判し、法的安定性を揺るがす危険も指摘した。自民党幹事長経験者らOBも連名で反対を表明する。反対世論が盛り上がってきた

 ▼政府・与党は沈静化に躍起だが、成立への速度を緩める気はない。数の力で押し切り、「時間がたてば世論は収まる」と踏んでいるのなら、なお危うい。何より大事な隊員、国民の命のはずである。守るべき人たちに、冒頭の親子が示した大切な相手への強い思いを感じない。熱を帯びる反対の源泉であろう。(宮城栄作)