大学の自治が脅かされている。そう感じざるを得ない事態だ。

 下村博文文部科学相は国立大の学長らに対し、入学式や卒業式で国旗掲揚と国歌斉唱を実施するよう要請した。

 発端は、4月の参院予算委員会での安倍晋三首相の答弁だった。次世代の党の議員から、国立大の国旗国歌実施率の低さを問われ、安倍首相は「税金によって賄われていることに鑑みれば、新教育基本法の方針にのっとって正しく実施されるべきではないか」と述べた。今回の要請は、この答弁を受けたものだ。

 安倍首相が指摘した「新教育基本法の方針」とは、改正教育基本法で教育目標に盛り込んだ「わが国と郷土を愛する」態度を指すとみられる。ただ、同法は、大学について別途、「自主性、自律性が尊重されなければならない」とも定めている。

 文科省によると、国立大全86校のうち、ことし3月の卒業式での国旗掲揚は74校、国歌斉唱は14校だった。実施するかどうか、それぞれの大学が自主的に判断したものだろう。その自主性を無視して「正しく実施されるべき」と断じるのは矛盾してはいないか。

 学習指導要領では国旗掲揚と国歌斉唱の指導が明記されているが、大学には適用されない。文科相は「慣行として国民に定着している」と説明したものの、要請に法的な根拠はない。

 にもかかわらず、大学が自ら行う式典の中身に政府が口を挟むことに疑問を禁じ得ない。ただちに撤回すべきだ。

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 琉球大学は国旗掲揚、国歌斉唱とも実施していない。大城肇学長は、学内の混乱を懸念し「大学改革など先にやるべきことがある」と話す。国旗掲揚のみ実施している滋賀大学の佐和隆光学長も「納税者に対して教育、研究で貢献することが責務だ」と批判的だ。大学の役割を考えればもっともな意見である。

 一方で、国立大関係者には動揺が広がっているという。文科相がいくら強要を否定しても額面通り受け取れないのは、国立大には政府に財布を握られている弱みがあるからだ。

 大学法人化以降、国立大は「成果」が求められ、国から支給される運営費交付金は減少傾向が続く。さらに文科省の有識者会議は、国の方針に従って改革を進める大学に交付金を重点配分する制度の導入をまとめた。

 本来は、大学改革と国旗国歌は別次元の話だ。しかし、「税金で賄われている」ことをちらつかせながら意に沿うよう求めるのは、もはや「要請」とは名ばかりの「圧力」でしかない。

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 首相発言を受け、学者らの呼び掛けで発足した「学問の自由を考える会」は、「政府の権力、権威に基づいて国旗国歌を強制することは、知の自律性を否定し、大学の役割を根底から損なうことにつながる」との声明を発表した。

 大学が政府から思想弾圧された戦前の歴史を繰り返してはならない。国立大学側は毅然(きぜん)とした態度を貫き、学問の自由と大学の自治を守ってもらいたい。