昨夏、横浜市で行方不明となり、家族が神奈川県警に届け出ていた80代の認知症の男性が、東京都内の公園で遺体となって発見される出来事があった。死因は脱水症と低栄養。男性はその2日前に都内の路上で倒れ、警察官や救急隊員と接触する機会があったが、認知症だと気付かれず保護されなかった。

 認知症が原因で行方不明になったり、事故に巻き込まれたりする高齢者が増えている。

 警察庁の発表によると昨年1年間に、家族などから届け出のあった認知症行方不明者は前年より461人多い1万783人。県内は68人。2年連続で1万人を超えた数字が示すのは、高齢化の中で家族にいつ起こるか分からない差し迫った問題だということだ。

 行方不明者の大方は昨年中に所在が確認されている。ただし168人については確認されないままだ。中には亡くなって発見されるケースもあり、身元が分からないまま施設で暮らす人も。家族の心労は察するに余りある。

 警察庁は昨年、自治体などと連携し、認知症行方不明者の発見、保護に努めるよう全国の警察本部に通達を出した。情報の共有と公開に力を入れるものだが、「個人情報」が壁となり思ったように進んでいない。

 認知症対策は、今後の高齢者介護における中心的課題である。命に関わる問題でもあり、行政には管理や閲覧ルールを徹底した上で、行方不明者情報を開示し、積極的に対応してもらいたい。

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 認知症を患い徘徊(はいかい)するお年寄りを、どのように保護し、家族の元へ帰すか。大切なのは、地域で認知症に対する理解や支援の輪を広げていくことだ。

 住民のほかタクシーなどの交通機関、コンビニなどの民間事業者も参加し、日常の声掛けや捜索につなげる「徘徊・見守りSOSネットワーク事業」が全国600を超える自治体で実施されている。

 情報をメールで一斉送信したり、自治体が衛星利用測位システム(GPS)端末を貸し出して所在を確認する動きもある。

 県内では、久米島町が警察や消防など公的機関を核に、コンビニや郵便局など生活に関わる場所に協力を呼び掛けネットワークを構築している。徘徊リスクの高い人については事前に登録する制度を設け、現在9人が登録中だ。

 広域での情報共有とともに、地域でのこまやかな目配りが欠かせない。

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 認知症で行方不明になった肉親を捜し続ける家族たちの集まりが、先月北谷町であった。

 情報を一元化するなど捜索のためのシステムづくりが叫ばれる一方、これまで見過ごされてきた家族の心のケアの必要性など新たな課題も浮かび上がった。

 10年後の2025年、高齢者の5人に1人が認知症になるといわれている。

 家族だけの見守りには限界がある。目指すべきは徘徊の防止ではなく、徘徊しても安心できる街づくりだ。