本書は20世紀半ばに東アジアの島嶼(とうしょ)地域で起こった「済州島4・3事件」「沖縄戦」「台湾2・28事件」を通して、国家の暴力によって命を落とした多くの人々が、その後に起こった救済措置や歴史の見直しを背景として、公的な「犠牲者」として認定されていく過程で生じる新たなポリティクスを描いている。3地域の歴史的背景は必ずしも同一ではないが、筆者はそれらに通底する課題を丁寧に掬(すく)い上げ未来への展望に向けた視点を提示している。

京都大学学術出版会・3456円 高誠晩著「〈犠牲者〉のポリティクス」

 その視点に迫るため筆者は第一に「『負の過去』を乗り越えるための方策としての公的な『犠牲者』創出のメカニズム」を解明し、第二に殺害された近親者を公的な「犠牲者」として「申請」する遺族第一世代の工夫と実践を明らかにした。「犠牲者」の認定には常に国民国家イデオロギーへの指向性がつきまとう。認定された側と「不認定」となった側に生じるそれぞれの葛藤、「認定」されることを拒否する人々の心性等、国家暴力の犠牲になった人々が、国家によって「犠牲者」と認定される事をめぐる困難性は、沖縄も決して無関係ではない。

 沖縄は援護法の観点から「戦死者の戦没者化」などの枠組みで論じられた。援護法の適用拡大に当たり、一般住民は「いかに戦闘に協力したのか」が問われたが、国家の論理で沖縄戦を測ることに対する批判的研究はこれまでにもあった。本書はそれらも踏まえ、申請主義の制約を受容しつつも公的なロジックに収まらないローカルな戦場体験を主体的に意味付けてきた遺族第一世代の実践をも歴史化した。それにより、新たな紛争を誘発する可能性も秘める過去清算を巡るダイナミズムを解明し、それを引き受けることが現代を生きる私たちが向き合うべき喫緊の課題であるという視点を示した。

 それは今年3月、刊行された『沖縄県史 各論編6 沖縄戦』の「沖縄戦は現在進行形である」(吉浜忍)という視点とも共通する。沖縄戦継承の在り方を現代史の文脈で再考し、未来へ向けた新たな沖縄現代史を構築する時期が到来しているのだと本書を読み改めて考えた。(納富香織・沖縄国際大学南島文化研究所研究員)

 著者:コ・ソンマン 1979年韓国済州島生まれ。京都大大学院博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学)。専攻は歴史社会学、文化人類学、東アジア研究。現在、立命館大衣笠総合研究機構専門研究員