カウンター越しに懐かしい顔を見た。かって、琉球古典音楽で外国人がグランプリを取ったということで騒がれたことのあるロビン・トンプソン氏であった。氏は10数年前によく顔を出していたのだが、最近は見かけることもなく、聞くと故国イギリスで10数年仕事をし、2年ほど前に沖縄に永住を決意し舞い戻ってきたという。いわゆる沖縄病患者は世界中にまん延、拡散しているようだ。

榕樹書林・6264円

 氏は「ちょっとした原稿を書いたが、御社で出版してくれないか」と言う。聞けば幾つかの所に断られたという。すべて小社よりずっと大きい会社だ。

 実のところ、以前からロビンさんには関心があったので、二つ返事で承諾した。それが、『琉楽(りゅうがく)百控(ひゃっこう)』である。

 聞いたこともない音楽専用ソフトで作られた琉球古典音楽の五線譜と解説からなるこの本の編集は、古典音楽のことなど何も知らない私と、印刷所の現場担当者を挟んでドタバタと、こまかな修正を印刷直前までさみだれ的に重ねながらも、昨年9月に上梓(じょうし)した。

 表紙には特殊紙のリベロを使い、紅型作家である奥さんの作品をあしらい、タイトルは金箔(きんぱく)押しにした。堂々とし、かつ華麗だ。書籍はその内容にふさわしい衣が必要だ、と思っているので、琉球古典音楽の華やかさ艶やかさを演出したかったのである。

 本は出来た。だが反応は鈍い。読み返してみると解説が高度に音楽学的で、その素養のない人には理解しにくいという、ごく当たり前のことに気づいたのであった。腕組みをしてしまう。

 とはいえ、これは本の価値を落とす話ではなく、むしろその価値を高めることだと気を取り直し、腹をくくって、長いスパンで勝負しようと決意することとなった。いずれ真当に評価されることを願っている。

 皆がこの本を追い求めることを夢見ることとしよう。(武石和実・榕樹書林代表)

琉楽百控―琉球古典音楽野村流工工四百選 楽譜と解説
ロビン・トンプソン
榕樹書林
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