まだ誰も見たことのないオペラ。パンフレットにある宣伝文句に胸を躍らせながら劇場に足を踏み入れた

▼東京で先日上演されたプッチーニの名作歌劇「トスカ」。世界的映画監督の河瀬直美さんがオペラ初演出に挑んだことでも話題だ

▼名アリア(独唱)がいくつも登場する「トスカ」は、主要人物が次々と死んでいく「救いようのない悲劇」の異名を持つ。そんな作品に「希望の光を見いだす」という河瀬流の演出や、映像と舞台がどう調和するのかが見どころでもある

▼富士山、海、太陽。場面ごとに変化する美しい映像は、不思議なほど物語にマッチしていた。「救いようのない悲劇」なのに、どこか人間のはかない愛が伝わる。カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた映画人のなせる技だろう

▼ネタバレは避けるが、絶望した主人公が身投げするまでを描いた終幕は圧巻。あっと言わせる演出への驚きと、ふわっと「希望」を感じる恍惚(こうこつ)感に浸った。もちろん、全編を通して、県出身のオペラ歌手、与儀巧さんを含めた出演者の歌唱が観客の喝采を浴びたのは言うまでもない

▼「音楽を聴くのに頭なんて必要ない」。世界三大テノールと呼ばれたオペラ歌手、ルチアーノ・パバロッティの言葉だ。きょうは文化の日。小難しく考えず、芸術の世界に埋もれてみるのも悪くない。(西江昭吾)