集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法案が衆院を通過した。自民、公明など与党による採決強行は、衆院特別委員会に続く暴挙だ。

 特別委の審議で露呈したのは、安倍晋三首相らが質問に正面から向き合うことを避け、説明を尽くそうとする姿勢から程遠いことだった。

 どういう状況になれば自衛隊が武力行使するのか。安保法案の核心を突く質問に、安倍首相は「総合的に判断する」などと、あいまいで具体性に欠ける答弁を繰り返した。

 中谷元・防衛相は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に触れ、「現在の憲法をいかにこの法案に適応させていけばいいのか」などと答弁した。国の最高法規は憲法である。中谷氏の発言は主客転倒している。

 大臣や国会議員には憲法を尊重し擁護する義務がある。にもかかわらず、安倍政権はあからさまに憲法を軽んじている。

 安倍首相は当初、憲法改正手続きを定める96条の要件を緩和することを考えていたが、難しいと見るや、解釈改憲にかじを切った。

 憲法解釈について安倍首相は「最高の責任者は私だ。選挙で審判を受けるのは内閣法制局長官ではない」と答弁したこともある。

 歴代内閣、国会が積み上げてきた憲法解釈を時の政権の判断によって変更が可能となれば、憲法に求められる安定性が損なわれ、権力者が恣意(しい)的に変えることができるようになる。国民主権の下で国家権力を縛る「立憲主義」の否定というほかない。

    ■    ■

 安倍首相は異論を認めない。象徴的なのは、民主党議員が質問している最中に「早く質問しろよ」と答弁席からやじを飛ばしたことだ。

 政府をチェックするのは議員として当然の務めである。それを封じ込めるようなやじは、国政に有権者の意思を反映させる代議制民主主義と国会を否定するものだ。

 その空気は自民党内に蔓延(まんえん)しているようだ。意に沿わぬ放送をしたテレビ局などの幹部を呼び事情を聴く。総務相は電波を止める命令を出すことができる。圧力と受け止められるのは間違いない。

 自民党内では安倍首相に近い議員らの勉強会で報道に圧力をかけるような発言が何のためらいもなく語られるようになっている。

 「安倍1強」体制は、党内での異論も許さない。異論を包む懐の深さがかつての自民党にはあったはずだが、それが失われた。

    ■    ■

 審議の舞台は参院に移る。違憲の疑いが濃厚な法案であることは参院に送付されても何ら解消されない。

 安保法案に反対する動きが全国各地で広がっているのは、法案そのものと、聞く耳を持たぬ横暴な「安倍政治」に対する危機感からである。特に子どもを持つ女性と若者らに顕著だ。

 参院はしばしば「盲腸」などと揶揄(やゆ)されるが、本来「良識の府」「再考の府」である。与野党を問わず、存在意義を懸けて審議に臨まなければ、自らの役割を放棄することになる。肝に銘じてほしい。