2020年東京五輪・パラリンピックの「顔」となる新国立競技場(東京都新宿区)の建設計画は、迷走した揚げ句、白紙撤回に追い込まれた。不透明な建設費の膨張に国民の批判が収まらず、安倍晋三首相は重い腰を上げざるを得なくなった格好だ。

 計画見直し自体は当然の判断だと言えよう。ただ、これまで軌道修正する機会は再三あった。にもかかわらず、当事者の文部科学省などは放置し続け、その結果、五輪準備への影響が避けられなくなってからの遅すぎる決断となった。予定されていた19年のラグビー・ワールドカップ(W杯)での使用も不可能になった。

 巨額になった要因は、「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大な弓状の構造物を特徴とするデザインだと指摘されている。国際コンペでは斬新さが評価されたが、当初から難工事が懸念されていた。

 総工費は二転三転した後に2520億円で了承された。コンペ時の想定額1300億円の2倍近くだ。近年の五輪スタジアム総工費が08年の北京大会で502億円、12年のロンドン大会は828億円だったのと比べても、いかに突出しているかが分かる。

 しかも、開閉式の屋根の整備を五輪後に先送りした額であり、最終的な総工費は3千億円に達する可能性があった。一方で、財源確保の見通しは立たず、文科省は税金の他に、命名権販売や寄付金などの民間資金、サッカーくじの収益も当て込んだ。

 こんな無謀な計画が国民の理解を得られるはずはない。

    ■    ■

 一連の問題を通して浮き彫りになったのは、関係者の無責任体質だ。

 デザインが決まった後、一部の建築家らは早くから、景観への悪影響などを含めた問題点を指摘していた。アーチ構造をやめて総工費を引き下げる代替案も出した。しかし、整備主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は「現在のデザインを前提として造ることが責任」とかわした。

 所管大臣の下村博文文科相は「明確な責任者がどこなのか、よく分からないまま来てしまった」と認めながらも、軌道修正はできなかった。

 デザインを決めた審査委員会委員長の建築家、安藤忠雄氏は「頼まれたのはデザイン案の選定まで」と説明し、コストに関する徹底した議論をしていなかったと明かした。

 計画を了承したJSCの有識者会議も、巨額の計画を問題視せず、当事者意識に欠けていた。

    ■    ■

 五輪招致の演説で「どんな競技場とも似ていない新スタジアム」と世界にアピールした安倍首相からすれば、白紙撤回は不本意だったかもしれない。

 だが国際オリンピック委員会(IOC)は昨年12月に改革案「アジェンダ2020」を打ち出し、五輪開催に際しコスト削減を促し、持続可能性を尊重するよう訴えている。計画見直しはその方針にかなったものだ。

 東京五輪まで残された時間は限られている。今度こそ明確な責任体制の下、国民に歓迎される「聖地」の整備に取り組んでもらいたい。