横綱の品格を語る以前の問題である。

 大相撲の東横綱日馬富士関(伊勢ケ浜部屋)が、平幕貴ノ岩関(貴乃花部屋)にビール瓶で殴るなどの暴行を加え、頭の骨を折るなどの大けがを負わせていたことが明らかになった。横綱は角界の最高位である。ただ力と技が抜きんでていればいいというわけではない。全力士の模範となるべき高い品格が同時に求められる。日馬富士関の行為は弁解の余地がない。

 両力士はいずれもモンゴル出身で、暴行を受けた貴ノ岩関は九州場所を初日から休場。日馬富士関も暴行を認めて謝罪し、場所3日目の14日から休場している。

 協会関係者によると、暴行事件は10月下旬、秋巡業で訪れていた鳥取県内で、モンゴル出身の力士ら10人前後が出席した酒席の場で起きた。

 日馬富士関が、兄弟子へのあいさつが足りないなどと貴ノ岩関の生活態度を注意した際、貴ノ岩関がスマートフォンを操作したことに激怒。ビール瓶で頭部を殴打し、さらに素手で20~30発殴ったという。止めに入った横綱白鵬関を突き飛ばし、後輩横綱の鶴竜関にも暴言を吐いたというから尋常ではない。

 ビール瓶で殴るなどの常軌を逸した暴行は誰であれ、理由が何であれ、許されない。まして角界を背負う横綱であればなおさらだ。

 貴乃花親方が鳥取県警に提出した被害届が受理されており、傷害事件として刑事責任が問われる可能性もある。

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 日本相撲協会は法律家を加えた危機管理委員会で九州場所が終わるのを待って本格的な調査に乗り出す考えのようだが、対応が遅いのではないだろうか。

 今回の暴行事件は発生直後からうわさが広がり、協会の耳にも入っていたはずだ。

 ならば日馬富士関、貴ノ岩関から直接、事情聴取してすぐにでも調査を始めるべきではなかったか。

 一連の経緯は不可解な点が多い。危機管理部長が九州場所前の今月3日、貴乃花、伊勢ケ浜両親方に電話で事情聴取したが、詳細な情報は得られなかったという。協会はなぜこれ以上追及しなかったのか、両親方もなぜ、協会に明確な説明をしなかったのか。

 直前に迫った九州場所の興行に影響が出ないように、との考えが協会側にあったとしたら、当事者としての危機意識が足りない。「暴力」を追放できなければ角界に明日はない。

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 角界では2007年に、元序ノ口力士=当時(17)=が親方からビール瓶で殴られ、兄弟子3人からも暴行される暴行死事件が起きている。4人は傷害致死容疑で逮捕され、有罪判決を受けた。

 10年には横綱朝青龍関が初場所中に泥酔して知人男性に暴力をふるい、責任を取って現役を引退している。

 協会は再発防止策として研修会を開いているが、上下関係が厳しい閉じられた角界では、先輩力士の暴力を容認する土壌が依然として残っているのではないか。ウミを出し切って自浄能力を発揮してもらいたい。