2017年(平成29年) 12月12日

タイムス×クロス 金平茂紀の新・ワジワジー通信

米大統領訪日と沖縄切り捨て 首脳会談前 問答無用の護岸工事 【金平茂紀の新・ワジワジー通信(30)】

金平 茂紀
金平 茂紀(かねひら しげのり)
TBS報道記者、キャスター、ディレクター

1953年北海道生まれ。TBS報道記者、キャスター、ディレクター。2004年ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に「ホワイトハウスから徒歩5分」ほか。

 ここまであからさまな「隷従」ぶりを内外に堂々と見せつけられると、もはや「隷従」が日本人の遺伝子に植えつけられた固有の属性なのではないかと誤解してしまうほどだ。もちろん誤解だ(と信じたい)。トランプ大統領の初来日の際の僕らの国の対応ぶりのことを言っているのだ。

名護市の辺野古沿岸部で、新たに始まった護岸工事=6日午前

 一連のアジア歴訪の皮切りが日本訪問だった。アメリカの有力紙「ワシントンポスト」は「Japanese leader Shinzo Abe plays the role of Trump's loyal sidekick.」との見出しを掲げて辛辣(しんらつ)な記事を掲載した。見出しは「日本の指導者、安倍晋三氏はトランプ氏の忠実な手下の役割を演じている」というほどの意味だ。

 記事の中では、日米共同記者会見の際に、トランプ大統領が用意された原稿を読み上げて日本の経済パワーの発展ぶりを持ち上げたあとに、突然アドリブで安倍首相に向かって話しかけた内容が紹介されている。「でも(日本経済は)アメリカ経済ほどじゃない。だよな?(Okay?)」。それがまるで親が子どもを諭すような口ぶりだったとこの記者は書いていた。

 そのうえで、トランプ大統領はダメを押すように「我々はこのままでいく。だから君らはいつも2番手だ」と付け加えた。おそらく安倍首相は言われていることの中身を理解できなかったのだろう。曖昧な笑みを浮かべるばかりだった。何という子供じみた発言をする大統領だろうか。イギリス、フランス、ドイツの首脳には絶対にこんな非礼な言葉は吐かない。中国の習近平主席にも絶対にこんな失礼な物言いはしない。日本だからやった。そこをワシントンポスト紙は逃さなかった。

 僕ら日本のメディア(特にテレビ)はと言えば、「日米関係史上最も親密な」両首脳の動向とやらを詳細に時々刻々と報じた。大好きなゴルフをした、米国産牛肉のハンバーガーを食べた、コイに餌をやった、夕食にウェルダンのステーキを食べた、天皇陛下に会いに行った、メラニア夫人が習字を体験した、共同記者会見をやった、ピコ太郎が招待されたレセプションが盛り上がった…。

 テレビ報道に長年身を置いてきた僕も、率直に言うのだが、辟易(へきえき)するほどのヨイショ報道ぶりだった。文芸評論家の斎藤美奈子氏は言う。「米大統領を歓待する日本の首相はまるで宗主国の君主を迎えた被植民地の首領。それを嬉々として伝えるテレビは批判精神のカケラもないお祭り報道のようだった」(東京新聞『本音のコラム』より)。ごめんなさい。その通りです。

 多くの日本の報道で触れられなかった重要なことがらがある。それはトランプ大統領が、在日米軍基地である横田基地に降り立って入国し、帰りも横田基地から次の訪問地・韓国へと飛び立って行ったことである。かつて来日した米大統領は必ず羽田空港など「表玄関」の日本の民間空港に降り立った。こんなケースは初めてだ。

 この横田基地を出入国に使う案は、9月の上旬にアメリカ側から一方的に通告されたのだという。警護上の理由もあるが、ひとつには、アメリカへの実質的な領土提供地(地位協定によって治外法権が認められている)である在日米軍基地に降り立つことによって、北朝鮮へのある種の威嚇的サインを発したという意味があるという。

 アメリカの大統領が米軍基地に降り立つ典型的な例は、戦争中のイラクやアフガニスタンの前線の米軍基地を電撃訪問して、兵士や家族らを慰問するというケースがある。それを今回の日本、韓国訪問でやってのけたというわけだ。日米関係の古くからの研究者のなかからは「マッカーサーの厚木基地上陸を髣髴(ほうふつ)とさせた」という声まで聞こえてくる。けれども今は占領時代とは「ちーがーうーだーろー」((c)豊田真由子元議員)。

 さて、実は本土のメディアでほとんど触れられなかったもうひとつの非常に重要なことがらがある。11月6日の日米首脳会談で日米双方が、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を「唯一の解決策」だと再確認したという点だ。さすがに沖縄の地元紙は本紙もこのことを1面トップで取り上げていたが、本土のニュース(特にテレビ)ではほとんど触れられていない。共同記者会見でも全く言及されなかったし、誰も質問しようともしなかった。

 そして致命的に重要なことは、この日米首脳会談に先立つこと、3時間の午前10時半過ぎから、辺野古で沖縄防衛局が新たな護岸工事に着手したことだ。だから首脳会談で「再確認する」前にすでに既定方針として、有無を言わさずに基地の建設工事を進めていたのである。これが両首脳の言うところの「よりグレートな同盟関係」の実態というわけだ。

 僕は想像する。日米首脳会談に意図的にぶつける形で、しかも先取りする形でこの日に護岸工事着手を命令した人物は誰か? これまでも沖縄県の国政選挙で、辺野古反対派の議員が当選した投開票の翌日などを意図的に狙って、移設工事再開を命令してきた人物がいたではないか。この問答無用の国家意思の命令者がいる。今回のトランプ大統領の日本訪問で、沖縄はまたしても、日米同盟深化の掛け声のもとで「切り捨てられた」のではないか。

 沖縄の写真家・石川真生がライフワーク(文字通り、命がけの作品)として制作している『大琉球写真絵巻』の撮影シーンを含むテレビドキュメンタリーをみた(11月11日。ETV特集『熱き島・沖縄を撮る 写真家・石川真生』)。番組のなかで、アメラジアンとして半生を生きてきた比嘉マリアさんの発言に涙した。写真家・石川真生にとって、撮ることは生きることだ。

 しかし、写真家ではない僕らにとって、トランプ大統領との「濃密関係ショー」が一通り終わって、今突きつけられているのは、これ以上、本土とアメリカの同盟深化のために、なぜ沖縄が切り捨てられ続けなければならないのか、という問いである。(テレビ報道記者・キャスター)=随時掲載

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