安倍晋三首相の側近中の側近の発言である。憲法をないがしろにする首相の本音を代弁したとみたほうがいいのではないだろうか。

 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案について礒崎陽輔首相補佐官が講演で「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要かどうかを気にしないといけない」と発言したことが参院特別委員会で取り上げられている。

 法的安定性とは何か。法律上の解釈などが大きく変わらず、安定していることである。安倍政権が集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更で認めたことに、衆院憲法審査会で与党推薦の憲法学者が「法的な安定性を大きく揺るがす」と指摘し、集団的自衛権の行使を「違憲」と断じたことを覚えている人も多いだろう。

 礒崎氏は安保政策を担当し、集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議に参加した人物である。単なる言い間違いではないだろう。

 閣議決定で憲法の解釈変更ができるのであれば、時の政権の都合のいいように憲法解釈を変えることができる。憲法は権力を縛るという立憲主義の否定につながる。

 ツイッターで礒崎氏は「法的安定性を否定したものではなく、自衛権は必要最小限度の範囲にとどまるべきだという基準により法的安定性は保たれている」と釈明。自民党の聴取に「心から反省し、おわびする」と謝罪したというが、内輪のやりとりである。

    ■    ■

 安倍首相の周辺からは憲法を疎んじる発言が相次ぐ。

 中谷元・防衛相は「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか、という議論を踏まえて閣議決定を行った」と衆院特別委で主客転倒の答弁をし、批判を浴びた。

 高村正彦自民党副総裁は日米安保条約に基づく米軍駐留の合憲性が問われた「砂川判決」から集団的自衛権の行使容認を導き出した。都合よくこじつけたというほかない。高村氏は「法の番人は最高裁判所であり、憲法学者ではない」と言っている。憲法学者らが砂川判決を集団的自衛権の行使容認の論拠としたことに批判的だからである。

 安倍首相自身もこう答弁したことがある。「憲法について、国家権力を縛るものだという考え方があるが、王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方であって、いまは日本という国の形、理想と未来を、目標を語るものではないか」と。その後も、立憲主義について「古いものではないか」と述べている。

    ■    ■

 参院特別委は3日に礒崎氏を参考人招致する。安倍首相は特別委で「法的安定性の確保は当然だ」として礒崎氏を「注意した」と答弁した。

 注意すれば済む問題なのか。連立を組む公明党から辞任論が浮上、自民党内部からも批判が出ている。

 法的安定性を軽視する礒崎氏の発言は重大だ。安倍首相の周りから似たような話が出てくるのは政権内に憲法を軽んじる空気があるからだ。安倍首相が礒崎氏と違うというのなら更迭するしかない。