福島第1原発事故をめぐって、東京電力旧経営陣の刑事責任が、初めて公開の法廷で問われることになった。重大事故はなぜ防げなかったのか。個人の責任追及もさることながら司法に期待したいのは、事故の全容解明である。

 東京第5検察審査会の議決で強制起訴されることになったのは、東電の勝俣恒久・元会長、武藤栄・元副社長、武黒一郎・元副社長の3人。

 旧経営陣3人は事故翌年の2012年、巨大津波の危険性を把握しながら十分な対策を取らず重大事故を招いた、として業務上過失致死傷罪などで告訴された。

 東京地検は「巨大津波を予測し、事故を回避するのは困難」で、過失責任を認め難いと2度、不起訴処分にした。

 検察審査会は、くじで選ばれた11人の有権者で構成される。審査会は2度にわたって検察判断を覆し、「起訴すべき」だと議決、最終的に強制起訴されることが決まった。

 勝俣元会長らは「遅くとも09年6月までに津波の高さが約15・7メートルになるとの試算結果の報告を受けて」おり、大津波を予測できたにもかかわらず、「効果的な対策を講じなかった」と、議決は指摘する。

 福島第1原発事故は世界的に見ても最悪レベルの事故だった。いまだに11万人の住民が自宅に戻れないでいる。  「これだけ重大な事故を起こしていながら、『想定外』との弁明を繰り返し、誰も責任を問われないのはおかしい」-強制起訴への道を開いたのは、多くの人々が抱く常識的な市民感覚だった。

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 今後、東京地裁が指定する検察官役の弁護士が強制起訴することになるが、過去に強制起訴されたケースでは無罪判決が相次いでいる。有罪立証の道は険しい。

 争点になるとみられるのは、巨大津波の予見可能性である。刑法学会では、過去に起きたことがあって具体的に危険が予測できないと罪に問えない、との具体的予見可能性の考え方が有力だといわれる。しかし、福島第1原発事故に、この考え方を適用することは妥当だろうか。

 国会の事故調査委員会は、この事故について「『人災』であることはあきらかである」と断定した。

 東電も、社内事故調による12年6月の最終報告では、想定外の事態が発生したため「対応は現実的に困難だった」と強調していたが、13年3月の事故総括では見方を改め、「防げた事故だった」ことを認めた(「メルトダウン 連鎖の真相」NHKスペシャル「メルトダウン」取材班)。

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 「人災」という見方や「防げた事故だった」という認識は、福島第1原発事故がなぜ起きたのか、を考える上で最も重要な点である。

 政府、国会、東京電力、民間の事故調査報告書は既に公表されているが、事故原因の徹底究明と責任の明確化が終わったとは言い難い。

 裁判の中で新たな証言や資料が提示されるのを期待したい。甚大な被害をもたらした重大事故から何を教訓として引き出すかは、徹底した全容解明が前提である。