安全保障関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」と発言した礒崎陽輔首相補佐官が、同法案を審議する参院の特別委員会に参考人として出席し、発言を取り消して陳謝した。

 問題となったのは先月末の講演でのこの発言。「法的安定性は関係ない。(集団的自衛権行使が)国を守るために必要な措置かどうかを気にしないといけない」「法的安定性で国は守れますか。そんなもので守れるわけがない」。

 憲法を軽視した発言であることは言うまでもない。

 法的安定性とは、ある行為が合法か違法かなど法律上の規定や解釈が大きく変わらずに安定していることをいう。法に従って安心して生活できることは重要で、解釈の安定性は法治国家の根幹である。

 参考人招致で礒崎氏は「誤解を与え、申し訳なかった」と話したが、補佐官の仕事は続ける考えを示した。

 陳謝すれば済む話なのか。

 質問に立った民主党の福山哲郎幹事長代理は、礒崎氏が雑誌の座談会で集団的自衛権の行使容認に関連し「憲法解釈の変更が違憲という話は聞いたことがない」と語ったことも取り上げた。異論を排除する傲慢(ごうまん)な態度が目に余る。

 憲法解釈の変更について、安倍晋三首相が国会で「最高責任者は法制局長官ではない。私だ」と発言したことと通ずる。

 私が法律だとでもいうような姿勢は、憲法によって国家権力を縛り、人権を保障していく「立憲主義」の否定にほかならない。 

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 礒崎氏は同じ講演で、安保関連法案の審議を「9月中旬までには終わらせたい」と語っていた。参院で審議が始まる前のことである。

 参院軽視のこの発言は、4月に安倍首相が米議会で安保法案を「この夏までに必ず実現する」と演説した国会無視の発言と重なる。

 参考人質疑で自ら質問を行った特別委の鴻池祥肇委員長(自民党)は「軍部が戦争にいたった道を止められなかったという先の大戦の反省から二院制ができた」「衆院の拙速を戒め、足らずを補うのが参院。参院は衆院の下部組織でも、官邸の下請けをやっているわけでもない」と強い不快感を示した。

 もっともである。

 安保法案の審議が参院に移って1週間たつが、「違憲」の疑いは強まるばかりだ。国民が参院に期待するのは、「良識の府」「再考の府」としての役割である。

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 礒崎氏は5人いる首相補佐官の1人で、安保法案の作成に中心的に関わってきた。首相に進言する立場にある人物の問題発言が示すのは、政権に蔓延(まんえん)する体質と憲法をないがしろにする姿勢だ。

 従来の解釈との整合性が失われ法的安定性を欠く法案を提出したことへの疑問が、あらためて浮き彫りになった。

 「憲法の安定性」と「参院での審議」を共に軽視した礒崎氏の発言は重大であり、安倍首相の任命責任は免れない。