2018年(平成30年) 6月24日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

木村草太の憲法の新手(68)教育の二つの政治的論点 無償化は既に政府の義務

 今回は、教育をめぐる二つの政治的論点を検討しよう。

 第一に、2017年10月の総選挙で、自民党と公明党は幼児教育の無償化を公約した。政府・与党は、この公約に基づき、認可保育所を無償化する方針を示した。

 しかし、認可保育所の保育料は世帯所得に応じて決定されるため、認可保育所無償化は、所得の高い世帯ほど恩恵が大きくなる。また、不運にも認可保育園に入れず、利用料の割高な認可外保育所などに預けている人との格差は、これまで以上に拡大する。

 この指摘を受けた政府・与党は、無償化に所得上限を設けるとともに、認可外保育所などの利用者にも補助金を出す方針を打ち出した。妥当な方針転換だが、それだけでは保育の問題は解決しない。

 都市部では、認可保育所不足により、そこに入所できるか否かで不平等が生じている。国民の「勤労の権利」(憲法27条)を実現するため、そして、子どもに良質な保育を提供するために、認可保育所の数を十分に増やすことが最優先の課題だろう。

 第二に、自民党は「教育の無償化」を憲法改正の検討項目として掲げた。この点、日本が批准する国際人権A規約13条には、中等・高等教育と技術・職業教育での無償教育の漸進的導入が規定されている。かつての日本政府はこの部分を留保していたが、野田政権下の2012年9月に留保を撤回した。憲法98条2項は、条約の順守を定めているから、教育無償化は、既に政府に課せられた憲法上の義務だ。もはや憲法改正を論じている場合ではなく、この理念をいかに実現するかを検討すべきだ。

 最近の報道によると、政府は、住民税非課税世帯を対象に、国立大学の授業料無償化、私立大学の授業料援助拡充を検討しているという。ただ、低所得世帯は、大学ではなく専門学校に進学する率が高い(東大大学経営・政策研究センター「高校生の進路と親の年収の関連について」参照)。専門学校は授業料が大学に比べ高額な上、授業料減免制度がないことも多い。大学だけを対象にした無償化は、低所得世帯に届かない可能性がある。

 もちろん、国の財源には限りがあり、国による財政出動には優先順位を定めねばならない。集中投資すべきは大学であって、専門学校進学はあくまでぜいたく品だ、との意見もあり得よう。

 しかし、就職・資格取得等で実績のある専門学校がある一方で、高等教育機関というに値する実態を備えているのか疑わしい大学もある。また、低所得世帯の場合、経済的事情で浪人生活や塾・予備校の利用が難しく、大学進学を選べないこともある。

 貴重な国の資源の適切な集中投資という観点からするなら、無償化対象を国公立に絞る代わりに、高校在学中の国公立大学進学支援を拡充する施策もあり得る。

 さらに、親が裕福でも、家業承継を強制したり、女子の進学を望まなかったりする場合もある。親の年収とは関係なく利用できる給付型奨学金などの施策も必要だろう。

 「教育を受ける権利」の憲法26条1項も、国際人権A規約も、教育の機会均等の理念を掲げている。未来ある若者のためには、総合的な施策が急務だ。

(首都大学東京教授、憲法学者)=第1、第3日曜日に掲載します。

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