「横綱の名前を傷つけぬよう責任を取りたい」。日馬富士が突然の引退を表明した。力士としては137キロの軽量ながら、低い姿勢からの鋭い立ち合いを二度と見ることはできない

▼16歳でモンゴルから入門。細い体を鍛え上げ頂点に立った。「弟弟子のこれからを思い礼儀と礼節を教えたかった」。見込みのある力士には、一門に関係なく指導することで知られていた

▼気持ちにうそはなかったかもしれない。しかし、平幕貴ノ岩への暴力行為はどんな理由があっても決して許されない

▼事件の現場に居合わせた横綱白鵬が、優勝インタビューで「日馬富士と貴ノ岩を再び土俵に上げてあげたい」と気持ちを吐露。観客へ万歳を促したことに、横綱審議委員会(横審)から「不謹慎」との「物言い」がついた

▼横綱には品格と力量が求められる。土俵入りは神事であり「神の使い」である横綱は、自らの感情を抑え「俗」な部分を見せてはならない、との伝統的な考えが根底にあるという

▼「日本、日本の国民、相撲を愛しています」。横審から厳しい処分を示唆され、引退に追い込まれた日馬富士の言葉からは無念さがにじんだ。一方で、相撲協会は暴行事件の真相解明に、リーダーシップを発揮していない。抜本的な再発防止策を打ち出さない限り、大相撲人気は再び凋落してしまう。(知念清張)