石垣市と与那国町の教育長ら8人でつくる教科用図書八重山採択地区協議会は、来春から両市町の中学生が使う公民教科書に育鵬社版を再び選択した。

 育鵬社は「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ会社で、従来の教科書を「自虐史観」と批判する人たちが編集に関わっている。憲法や家族観をめぐる記述が他の教科書と異なることから、全国で採択、不採択のせめぎ合いが表面化している。

 教科書選定にあたって、八重山採択地区協議会は「原則公開」とする規約があったにもかかわらず、非公開とした。公職性が高い委員の顔ぶれも明かさず、開催日も場所も伏せて、密室での協議を強行した。

 「教育現場や住民の声は反映されたのか」「育鵬社のどこが優れていたのか」

 両教委が教科書を正式に採択した後、議事録を開示する方針というが、会議の持ち方に不透明な印象があるのは拭えない。

 公立の小中学校で使う教科書を決定する権限は教育委員会が持っている。複数の自治体を一つの採択地区として「採択地区協議会」をつくり決めるところも多い。

 前回2011年の教科書選定では、八重山採択地区協議会に竹富町も加わっていた。保守色の強い育鵬社の公民教科書が選ばれたことに反発した竹富町が別の教科書を採用し、協議会を離れた「八重山教科書問題」は記憶に新しい。

 当時、混乱が起こったのも選定過程の不透明さからだ。

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 安全保障関連法案をめぐり憲法学者のほとんどが違憲性を指摘する集団的自衛権の行使について、育鵬社の公民はこう記述している。「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、日本が必要最小限度の範囲で実力を行使することは、憲法上許されるのではないかとの指摘があります」。

 政権の主張をなぞった一面的な解釈である。

 国民の意識の項では「愛国心が、多様な人々をひとつの国民へとまとめる重要な役割を果たしています」と記述。男女共同参画社会の課題では「性差と男女差別を混同し、男らしさ、女らしさや日本の伝統的な価値観まで否定している」と書く。

 愛国心を前面に掲げ、伝統的家族観を重視する姿勢が強く感じられる内容だ。

 一方、沖縄の基地問題では日米安保の重要性が強調される中、住民の反対については触れられていない。 

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 安倍晋三首相の下で愛国心を重視した教育改革や、道徳の教科化が進む。

 文部科学省は、今回の検定から新しいルールを用い、領土や近現代史を扱う場合、政府見解に基づく記述を求めてきた。

 国の関与が強まれば、時の政権によって教育の内容が左右される恐れがあり、教育と政治は一線を画すべきである。

 政権に都合のいい価値観を、子どもたちに押し付けるようなことがあってはならない。