民法には「嫡出推定」という規定がある。結婚している妻が出産した子は夫の子(嫡出子)と推定する、という規定だ。

 離婚成立前に妊娠した子は夫の子とみなされ、離婚後300日以内に生まれた子も、法律上は前夫の子と推定される。しかも、父子関係を法的に否定するための「嫡出否認」の訴えを起こせるのは男性だけである。

 このような民法の規定は男女平等などを定めた憲法に違反するとして、兵庫県に住む60代の女性らが国に計220万円の損害賠償を求め、訴訟を起こした。

 60代の女性は夫の暴力が原因で別居し、離婚が成立する前に別の男性との間に娘を産んだ。民法の規定で法的には前夫の子になるため出生届を出せず、無戸籍となった。

 無戸籍となる原因の大半は民法の嫡出推定制度に関係しているだけに判決が注目されたが、神戸地裁は、同規定について、子の身分の安定や利益確保が目的で合理性があると判断し、請求を棄却した。

 何らかの事情で子の出生届が出されず、戸籍に記載されないまま生活している「無戸籍者(児)」は、本来受けるべき行政サービスも受けられず、社会生活上、さまざまな不利益をこうむっている。

 個人の尊厳にもかかわる重大な問題が現実に生じているのである。「無戸籍者(児)」の解消は急務だ。国や地方自治体は、子どもの権利保護を最優先し、法制度の見直しなど救済策を早急に講じるべきである。

■    ■

 DNA鑑定で親子関係が否定された場合、法律上の父子関係を取り消すことができるか-が争われた裁判で、最高裁は2014年7月、DNA鑑定よりも民法の「嫡出推定」規定が優先される、との判断を示した。

 判決は「子の身分の法的安定性を保持するのに合理的」と指摘しており、神戸地裁は最高裁判決を踏襲したとみられる。

 この民法の規定は明治期にできたもので、家族観の急激な変化や男女平等の考えを反映したものではない。

 それでも、法制度の根本的な見直しが進まないのはなぜだろうか。棚村政行・早大教授(家族法)は指摘する。

 「根本的解決には、嫡出否認の訴えを妻側にも認めるなどの法改正が不可欠だが、『不貞行為を助長する』などの反対意見も強く難しい」

 最も重要で緊急を要するのは、「無戸籍者(児)」をなくし、1日も早く彼ら彼女たちの権利を回復し、普通の生活を保障することである。

■    ■

 全国に戸籍のない人はどのぐらいいるのだろうか。法務省の調査では700人を超すが、民間団体は、少なくとも1万人超と推定する。

 「無戸籍問題」は、実態を把握することが難しい。その上、法制度の壁が立ちはだかっている。

 法務省は制度の運用改善によって無戸籍者を解消していくという考えである。さまざまな形で実効性のある救済策を打ち出していくのは大事なことだ。だが、運用改善だけではやはり限界がある。