自民党総裁選は、直前まで立候補に意欲を示していた野田聖子前総務会長の出馬断念により、安倍晋三首相の再選が決まった。

 党内の全7派閥が首相の再選を支持し、実に18年ぶりの無投票決着となったが、立候補に必要な20人の推薦人を確保できず出馬を諦めた野田氏の側から総裁選を見ると、自民党が抱える問題が浮かび上がる。

 野田氏が400人を超える党国会議員の中から推薦人20人を集めるのに苦労したのは、安全保障関連法案審議への影響を心配した首相周辺の「圧力」という。

 出馬断念を伝える記者会見で語ったのは「党にも多様な議員がいて意見がある」「自由闊達(かったつ)な議論を実現したかった」という総裁選の意義だった。

 開かれた議論で民意をくみ取り、複数の候補者がそれぞれの政策を戦わせる、かつての総裁選を思い返してのことだろう。

 事前に党本部に提出した公約で野田氏は「この道も、あの道もある」を掲げた(8日付朝日新聞)。首相が繰り返す「この道しかない」を意識したキャッチフレーズである。

 圧倒的に少数派である女性国会議員の一人として、プライベートでは障がいのある子を育てる母親が描く「あの道」とはどういうものだったのか。「この道」との違いを比べてみたかった。

 総裁選出馬はかなわなかったが、それでも、自民党の多様性が失われているのではないかと問い掛けた意義はあったといえる。

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 総裁の任期は2018年9月までの3年間。対立候補が出なかったことで安倍首相は胸をなでおろしているのかもしれない。

 しかしこの「安倍1強体制」を支えているものが何なのか見極めるべきである。

 一つは小選挙区制導入による執行部への権力集中と派閥の弱体化、もう一つは民主党をはじめとする野党のふがいなさ、それから連立を組む公明党のバックアップである。安倍政権の政策が支持されているからではない。

 共同通信社が8月に実施した世論調査で、参院で審議中の安保法案の今国会成立に6割以上が反対している。自民党総裁選についても7割以上が「別の候補が出て選挙戦になるのがよい」と答えている。

 主催者発表で12万人が国会周辺を埋め尽くした安保法案反対のデモが示すように、民意と安倍政権の政策は大きく乖離(かいり)する。

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 辺野古新基地建設に反対する集会では、基地反対とともに「安倍政権退陣」が決まって叫ばれる。

 本紙などが6月に実施した県民意識調査で、安倍内閣の支持率が22%と全国に比べ際立って低かったのも、辺野古移設を強行するなど国民の声に耳を傾けようとしない政権の傲慢(ごうまん)さが沖縄で強く表れているからだ。

 安保法案、新基地建設、原発再稼働など民意とのねじれが突き付けるのは、盤石のように見えて実はもろい政権の基盤である。