濁流の中、必死に電柱につかまる男性、2階のベランダから手を振る親子。川からあふれた水が民家をのみこみ、住宅街から地面が消えた。

 台風の影響で記録的な大雨に見舞われた茨城県常総市の鬼怒川堤防が決壊した。宮城県大崎市内を流れる渋井川の堤防も崩れた。

 川の氾濫や土砂崩れなどにより、関東、東北各地で甚大な被害が出ている。

 鬼怒川が決壊したのは10日午後1時前。上流の栃木県日光市では降り始めからの雨量が600ミリを超えるなど過去にない大雨を記録した。茨城県によると、約32平方キロという広範囲にわたって市街地が浸水。約6500棟ある住宅の多くが被害を受けた。

 浸水地域に取り残された住民の救助が進む一方で、連絡が取れない人がいる。不明者の安否確認と、今なお「孤立」する人たちの救助を急いでほしい。

 気象庁が最大限の警戒を呼び掛ける特別警報を茨城県に出したのは10日午前7時45分。

 特別警報が出されたにもかかわらず、自宅にとどまるケースが目立ったのは、朝早い時間帯だったためか、家から出られないほど危険が迫っていたためか、市の避難指示の出し方に問題があったのか。

 地震などに比べ洪水への警戒心は低いといわれる。「これくらいなら大丈夫」という油断のようなものがあったとすれば、今後の課題としなければならない。

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 2年前に運用が始まった特別警報は、従来の警報基準を超える数十年に1度の大雨や暴風などが予想される場合に発令される。重大な危険が差し迫った異常事態とし「ただちに命を守る行動を」求めるものだ。

 命の危険を知らせる警鐘という位置付けではあるが、住民の受け止めはというと、その切迫性が正確には伝わっていないように思う。

 沖縄では昨年7月の台風襲来時に初めて特別警報が発令された。避難勧告の対象となった住民68万4千人のうち、実際に避難したのは947人。どう対応していいのか分からなかったという住民が多かった。

 「命を守る情報」だけに、周知や啓発に力を入れる必要がある。

 大切な情報が住民にどのように伝わったのか、伝わらなかったとしたらどのような問題があったのか、検証も必要だ。

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 鬼怒川の決壊現場付近は10年に1度の大洪水に対応できないとし、国土交通省による堤防のかさ上げが計画されていた。決壊をシミュレーションしながら対応が追い付かなかったことは残念である。

 鬼怒川は「暴れ川」として知られている。住んでいる土地の歴史を知った上で、避難方法をあらかじめ話し合うことが重要である。いざというとき、実際の避難に結びつけるには、防災訓練に参加するなど日頃の備えが欠かせない。

 甚大な被害を出した大規模水害が突き付けるのは、「早め早めの避難」という防災の鉄則だ。