これほど奇抜なスピーチはそうお目にかかれない。きらびやかな東京・帝国ホテルのホールに集まった人々はあっけにとられたり、苦笑したり

▼11月にあった山田風太郎賞授賞式。小説「ヒストリア」で選ばれた県出身の作家、池上永一さんは「気の利いたことを言う」と告げ、日本からボリビアへの郵便の送り方を一気にまくし立てた

▼なんでも、ボリビアの郵便事情は世界最悪レベルで、普通に送るとまず紛失するそうだ。調査請求書を出しても無視される。送り先に届けさせるには、現地の郵便当局に電話し「ジャパン」と言い、続けて郵便物の識別番号を読み上げ、相手が復唱するまで繰り返すのだという

▼「大事なのは気合」。そう念押ししてスピーチを終えた。なぜこの話なのだろう。その時はいぶかしく思ったが、629ページを読破して印象は変わった。辞書のような厚みにひるむが、物語の熱量にすぐ引き込まれる

▼沖縄戦を生き、ボリビア移民した女性の半生。革命家のチェ・ゲバラら実在の人物が登場し、核戦争寸前だったキューバ危機などを絡めた壮大なドラマは、著者の並々ならぬ“気合”が全編にあふれ出る

▼賞を主催した角川文化振興財団の角川歴彦理事長は「とにかく熱い。この小説さえ持てば冬山でも大丈夫」と冗談を飛ばした。贈る賛辞にどんぴしゃだ。(西江昭吾)

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