沖縄の言語文化の置かれた状況について、琉球大学名誉教授の米須興文さんは2000年、「九回裏で10対1くらいのリードを許しているといって過言ではない」と野球の試合にたとえて表現した。「圧倒的な日本語文化になすすべもなく飲み込まれつつある」というのである。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)は09年、世界で約2500の言語が消滅の危機にあると指摘し、その中には奄美・琉球諸島で話されている琉球諸語も含まれていると発表した。

 沖縄文化の基層であるしまくとぅばが、このままでは消滅するかもしれない-。その危機感から保存・継承の機運が高まり、地域での活動が盛んになってきた。各地でウチナーグチ講座が開かれ、さまざまな会合でしまくとぅばのあいさつを耳にする機会も増えている。

 ことしも9月18日の「しまくとぅばの日」に合わせ、地域に伝わる昔話や自分の思いをしまくとぅばで発表したり、芝居などを上演する催しが開かれ、盛り上がりをみせた。

 では、「10対1」ほどに点差の開いた危機的な状況から、挽回できたのだろうか。

 県内5大学の学生を対象にした昨年の調査では、回答者559人のうち、しまくとぅばで日常会話ができると答えた学生は、わずか2・5%にとどまった。

 言語文化は、そう簡単に復興が図れるものではない。生活の場で使わない限り衰退は避けられない。日常的なレベルにどう広げられるかが鍵となる。

    ■    ■

 18日に開かれた「危機言語サミット」沖縄大会で報告した石原昌英琉大教授は「聞けるが話せない世代を話者にすることが課題。地域の人々をいかに巻き込むかだ」と指摘した。

 しまくとぅばを日常的に使うのは、主に高齢者層だ。今、しっかりと次の世代に引き継いでおかないと、話者がいなくなれば言葉も消滅してしまう。

 そこで、お年寄りの話すしまくとぅばを沖縄の「財産」と位置付け、若い世代が直接高齢者と触れ合い、しまくとぅばを耳にする機会を増やすよう求めたい。核家族化が進み家庭での継承が困難になった今、地域と学校が連携して教育の場で積極的に取り組むことが必要である。

 小学生には、先人の知恵や教訓の込められた「黄金言葉」などから入ると親しみやすいようだ。沖縄芝居などの活用も、若者が話し言葉に触れる機会になる。テレビやラジオ、インターネットなどの役割も重要だ。

    ■    ■

 ただ、幅広い年齢層が日常生活でしまくとぅばを使う、というところまで復興を図るのは容易ではない。ハワイ語復興運動など海外の事例も参考にするべきだ。

 県はしまくとぅば保存と普及に向け、政策参与を新たに民間から任命し、表記法の議論にも取り組む方針だ。表記法は専門家の間でも見解が分かれる難題だが、議論を通して、多様性に富むしまくとぅばの継承への理解が進むよう期待したい。