昨年3月、新婚旅行で沖縄を訪れていた台湾人女性が、予期せぬ早産で884グラムの男児を出産した。驚くほど高額な医療費が発生し窮地に立たされた夫婦を救ったのは県民の寄付金だった。

 その善意は回り回って今、外国人観光客を支える仕組みにつながろうとしている。

 鄭(てい)さん、李(り)さん夫婦が来沖したのは3月29日。3泊4日の日程で沖縄を満喫しようとしていたところ翌30日、妊娠7カ月だった李さんが突然破水し、県立南部医療センター・こども医療センターに緊急搬送された。帝王切開で生まれたのは超未熟児の男の子。

 旅行保険には入っていたものの出産は対象外で、新生児集中治療室(NICU)の入院費など少なく見積もっても600万円が必要とされた。

 工場勤めの夫とレストランで働く妻の月収は合わせて22万円ほど。

 支払いのめどが立たない上、言葉が通じない外国で途方に暮れる夫婦に手を差し伸べたのは、県内に住む台湾出身者でつくる琉球華僑総会(張本光輝会長)だ。まず会員に寄付をお願いし、その後、新聞を通じ県民へも広く呼び掛けた。

 「うちの子も未熟児だった。きょうはステーキを食べるのを我慢します」と1万円を事務所に届けた家族がいた。

 「以前台湾で農業の研修を受けた。お世話になった」と名前も名乗らず5万円を託した男性も。

 1カ月足らずで集まった寄付金は2008万5156円。華僑関係者や本土からの大口寄付もあったが、大半は県民からだった。

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 出産から2カ月近くたった5月24日、李さんは1660グラムまで育った男児を抱き郷里へ戻った。

 年の瀬に張本さんのもとに届いた手紙には、ハイハイができるようになったと赤ちゃんの成長がつづられていた。

 この話には後日談がある。

 最終的に寄付金は分娩(ぶんべん)費や入院費などの総額をはるかに超え、1120万円余の余剰金が生じたのだ。

 華僑総会は、県民の善意を同じように困っている外国人観光客のために有効活用してほしいと、残額を県に寄付することを決めた。

 早速、県が事務局となり外国人観光客の医療費問題を話し合う任意の協議会を立ち上げ、支援策の議論が始まった。

 緊急性が高く、重篤な症状など事情を考慮しながら、200万円を上限に支援しようとの話が進む。

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 昨年1年間を通してインターネットで最も読まれた本紙記事が、この「沖縄旅行中に早産」だった。

 自己責任を問う声がないわけではないが、「相身互(あいみたが)いの精神」で瞬く間に善意の輪が広がったのだ。

 人々は保育器の中で頑張る小さな命に思いをはせながら寄付を寄せたのだと思う。

 台湾に帰った夫婦は3年後、成長した息子とともに沖縄を訪れる約束をしている。

 ほっこりとした気分にさせてくれるこのエピソードは、観光とは何か、沖縄観光はどうあるべきかを考える上での生きた教材でもある。