年末年始の東京は、うららかな日が続き、穏やかな正月を迎えた。陽気に誘われ、家の近所の銭湯へ4歳の息子と出掛けてみた

▼8階建てのデザイナーズマンションの地下1階。店構えは昭和の風情とずいぶん趣が異なるが、この方がむしろ大都会の街並みに溶け込んでいるのかもしれない

▼のれんをくぐると、番台ではなく普通のカウンター。エレベーターで直接行き来するマンション住人もいた。銭湯というより、小ぎれいなホテルの大浴場のような雰囲気に近い

▼都内で銭湯はほとんど残っていないと思い込んでいたら、案外そうでもない。東京都浴場組合の加盟店は約560軒。自宅のある中央区にも9軒ある。庶民の社交場はいまなお健在だ

▼風呂の始まりは、6世紀の仏教伝来に伴い、寺院で身を清めるために造った「浴堂」とされる。東大寺(奈良県)には、いにしえの名残をとどめる「大湯屋」が現存している。入浴は七病を除き、七福が得られるという教えがあり、僧侶に限らず参詣客にも開放したと伝えられている

▼息子と互いの背中を洗い合い、湯船に漬かると、スイレンが描かれた壁画が目に入った。朝に花を開かせ、夕刻には閉じるスイレンの生態周期は、どこか人間の営みと重なる。花言葉は「清純な心」。初風呂で身も心も洗い清め、新たな一年が始まった。(西江昭吾)