「核のボタンが私の事務室の机上に常に置かれている」

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「新年の辞」で米国を威嚇した。米本土全域が核攻撃の圏内にあると主張し、核弾頭と弾道ミサイルを量産し実戦配備に拍車を駆けるよう指示した。

 「私の核のボタンの方がずっと大きく強力で、しかも作動する!」

 トランプ米大統領はツイッターで反応した。

 核使用に絡む威嚇の応酬は常軌を逸している。まるで子どもがおもちゃを自慢するような口ぶりである。核を巡る不確実性は高まっているとみるべきだろう。

 気になるのは唯一の戦争被爆国である日本の安倍晋三首相の対応だ。

 「必要なのは対話のための対話ではなく、圧力を最大限に高めること」だとトランプ氏を一貫して支持しているからである。

 国連で昨年、核兵器禁止条約が圧倒的多数で採択された。条約は核兵器の使用や開発、実験、製造、保有のみならず「使用をちらつかせる脅し」も禁じている。

 にもかかわらず、政府は核兵器廃絶を求めながら核兵器禁止条約に参加せず、米国の「核の傘」への依存度を強めている。

 政府は「核の傘」維持と日米同盟の強化、防衛力増強を鮮明に打ち出しているが、いずれも核兵器廃絶・非核三原則・専守防衛という安全保障の基本政策に抵触しかねない内容をはらんでいる。

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 北朝鮮の脅威を強調することで国民の不安を高め、防衛力増強と日米同盟強化を図るというのが安倍氏の狙いではないのか。その先にあるのは改憲である。

 「明らかに北朝鮮のおかげもある」

 麻生太郎副総理兼財務相は昨年10月の衆院選で自民党が大勝した理由に触れ、こう語った。

 「従来の延長線上でなく、国民を守るため真に必要な防衛力強化に取り組む」

 安倍氏が年頭の記者会見で述べた対北朝鮮政策である。

 新年度予算案には、地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」、「敵基地攻撃能力」につながる長距離巡航ミサイルの導入が盛られている。専守防衛を逸脱する恐れがあるのに、ほとんど議論がないままだ。

 ロシアはイージス・アショア導入に反発し、対抗する考えを示した。東アジアは「安全保障のジレンマ」に陥っている。憂慮すべき事態だ。

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 「今年こそ、憲法のあるべき姿を国民に示し、改憲に向けた議論を一層深める」

 安倍氏は同じ記者会見で、自身の悲願である改憲に前のめりの姿勢を示した。

 だが本社加盟の日本世論調査会によると、戦争放棄や戦力不保持を定めた憲法9条改正について「必要はない」が53%と過半数を占めた。

 安倍氏の下での改憲反対も半数を超えた。なぜ、いま改憲なのか、根本的な議論が欠けている証しである。

 空気に流されず冷静に判断する。その必要性がかつてないほど高まっている。