2018年(平成30年) 4月21日

タイムス×クロス 木村草太の憲法の新手

[木村草太の憲法の新手](71) 「ニュース女子」放送倫理違反 反対派への差別拡大、謝罪必要

 東京MXテレビ・ニュース女子が2017年1月2日に放送した沖縄基地問題の特集に関して、放送倫理検証委員会(BPO)は、昨年12月14日、「重大な放送倫理違反」ありとの意見を発表した。

 番組は、(1)高江の米軍ヘリパッド建設抗議運動の参加者が、機動隊員や防衛局職員を搬送する救急車の交通を妨害した、(2)番組リポーターの井上和彦氏は「反対派にとって有名人」で、抗議運動は同氏が取材できないほどに危険で過激な運動だ、(3)抗議運動の参加者には日当が支払われている可能性がある、との事実を適示した。

 しかし、地元消防本部、抗議運動参加者、番組で日当支払いの根拠とされた茶封筒の発見者のそれぞれに対してBPOが調査したところ、いずれの事実も確認できなかった。さらに、番組制作会社は、放送前に、消防本部や抗議運動参加者への取材を全くしていなかったことも確認された。

 アメリカは表現の自由を手厚く保護する国として知られている。それでも、適示事実を虚偽と知りながら、あるいは、そもそも真実かどうかに関心を持たずに虚偽の言説を流布すれば、「現実の悪意」として、名誉毀損の責任が問われる。今回の番組制作会社には、「現実の悪意」があったと認定されてもやむを得ないほどの悪質さだ。

 なぜ、これほど悪質な言説が流布されるのか。

 BPOは、番組に多くの侮蔑的表現があったことも指摘する。例えば、「基地の外の」反対運動という表現が、スーパーで強調の上、多用されていた(インターネット上では、キチガイの誤変換「基地外」という言葉が、反対運動を揶揄・侮蔑するために、しばしば用いられる)。

 また、「反対派の連中」、「基地の外の反対運動の人たちは土日休み」、「過激派デモの武闘派集団『シルバー部隊』」といった侮蔑的表現が何度も出てくる。

 ここからは、米軍基地反対派に対する、制作者の強い差別感情が伺われる。昨年末、米軍機からの落下物の被害を訴えた緑ヶ丘保育園への無根拠な誹謗(ひぼう)中傷なども考えると、この差別感情は日本国内に相当に広がっていると考えるべきだ。

 アメリカの標準的な憲法解釈には、「疑わしき区別の法理」と呼ばれる法理がある。差別感情が背景にある可能性の高い区別(「疑わしき区別」)について平等権侵害の有無を判断するときには、特別に慎重でなければならないとの理論だ。この理論は、日本の報道倫理を考えるのにも参考になる。

 テレビ局には、放送倫理上の問題がないか、番組や台本等を放送前にチェックする考査部門がある。BPOは、MXテレビの考査は不適切だったと結論した。この不適切さの背景には、抗議運動への差別拡大への認識不足もあるだろう。放送メディアが基地問題を扱う際には、事実の真偽や論評の適切さについて、特別に慎重な吟味をする必要があるように思う。

 BPOの判断により、番組の放送倫理違反は明白となった。しかし、まだ、番組内で誹謗中傷を受けた個人や団体に対する名誉毀損の問題は残る。MXテレビや制作会社は、責任をもって、被害者への謝罪も行うべきだ。(首都大学東京教授、憲法学者)

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本紙好評連載が待望の単行本化。2015年2月から始まった連載の46回目までを加筆修正して収録。辺野古、安保法制、表現の自由、夫婦別姓など、沖縄/日本の状況を憲法の理論から読み解きます。

■木村草太 著
■四六判/190ページ
■価格 1,200円+税

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