台風21号が通過して一夜明けた29日、与那国島には勢力の強さを物語る生々しい爪痕が残されていた。島と外部を結ぶ交通手段が遮断されて孤立状態が続く中、住民らは復旧に向けた作業に追われた。石垣空港では島に帰れず足止めされた人々が、連絡の取れない家族を思い不安な表情を浮かべた。

台風21号の影響で陸揚げされた漁船が横倒しに。1隻は転覆した=29日午前8時57分、与那国町・久部良漁港(石垣海上保安部提供)

台風21号の暴風で傾いた電柱=29日、与那国町(同町提供)

台風21号の影響で陸揚げされた漁船が横倒しに。1隻は転覆した=29日午前8時57分、与那国町・久部良漁港(石垣海上保安部提供) 台風21号の暴風で傾いた電柱=29日、与那国町(同町提供)

 「早く携帯を充電したい」「今後が心配」-。最大瞬間風速81・1メートルを記録し、与那国島に甚大な被害をもたらした台風21号。島では29日現在もライフラインがまだ復旧していない地域もあり、住民は不安を抱えている。

 島で生まれ、70年間暮らす野嵩三江さん(70)=餅屋経営=は「今までで一番、恐怖を感じた」と声を震わせた。最接近した28日午後3時すぎ、自宅のある祖納集落は停電。仏壇と玄関にろうそくをともし、暗い部屋で暴風の音におびえる1歳のひ孫を抱きしめ、夕方まで過ごした。「ドン、ドンとすさまじい暴風。揺れも激しく、いつ屋根が吹き飛ぶか、気が気じゃなかった」

 台風通過後の29日、電話が不通となっていた比川集落に、親せきの安否を確認するため向かった。道沿いには巨大なフクギの木や電柱が何本も倒れ、「見たことのない光景。昼すぎにテレビやクーラーがついた時には、本当にほっとした」と話した。

 教育実習で里帰りしていた、大学生の根本和佳奈さん(21)は29日、実習先の比川小学校で後片付けに追われた。体育館の屋根の一部が吹き飛び、幼稚園の園舎は窓ガラスが割れた。比川集落の実家は、丸1日が過ぎても電気が止まった状態だ。「水風呂には慣れたけど、情報がまったく入らず困る。早く携帯を充電して友人と連絡したり、テレビを見たい」と話した。

 与那国町商工会の蔵盛希美さん(30)は、一応、食料は買い置きしてあると言いつつ「船はしばらく出ないはず。今後の生活が心配」と不安がった。

■与那国空港 機器故障し欠航

 与那国空港では、航空機の着陸時に使う機器が故障して航空路線が全便欠航し、フェリーも運航を見送った。足止めを余儀なくされた人からは、家族を心配する声もあがった。

 南ぬ島石垣空港では、中体連に参加した与那国町立久部良中の生徒が欠航の決定を聞き、肩を落とした。

 上原灯哉君(2年)は両親の携帯が不通で連絡が取れないまま同日も石垣島で待機することに。「学校のガラスが割れたと聞いたが、家や家族はどうなっているのか…」と不安そうな表情を浮かべた。

 祖納に住む新嵩国洋さん(68)は27日に島へ戻る予定だったが、台風接近で欠航。29日も欠航となり、次の空き席の10月3日の便を予約した。「島に戻るのに1週間もかかる。宿泊代もかさむし、もっと利便性を上げてほしい」とこぼした。石垣空港には町の要請を受け、陸上自衛隊の輸送ヘリが飛来し、電気工事の作業員や報道機関を乗せ、午後4時すぎに与那国島に向かった。沖縄電力の担当者は「40本ほどの電柱が倒れていると聞いている。早めの復旧に務めたい」と語った。