うれしい知らせが、スウェーデンから相次いで届いた。

 ことしのノーベル医学生理学賞に、大村智・北里大特別栄誉教授が選ばれた。微生物が作り出す化学物質から、熱帯感染症への特効薬を発見し、多くの人々を救った功績が認められた。

 翌日には、梶田隆章・東京大宇宙線研究所長がノーベル物理学賞に決まった。重さがないと考えられていた素粒子「ニュートリノ」に質量があることを確認し、栄誉に輝いた。両氏の快挙を心から喜びたい。

 大村さんは、静岡県のゴルフ場の土壌で見つけた細菌の作り出す物質が、寄生虫に効果があることを発見し、米国の製薬会社との共同研究で薬剤「イベルメクチン」を開発した。

 この薬は、アフリカなどの熱帯病で重症化により失明することもあるオンコセルカ症(河川盲目症)や、リンパ系フィラリア症(象皮症)の特効薬となった。世界保健機関(WHO)は2020年代にいずれも撲滅できるとみている。

 さらに、沖縄や奄美地方の風土病といわれた糞(ふん)線虫症にも劇的な効果を表し、ほぼ100%治療できるようになった。沖縄にとっての「恩人」でもある。

 一方、梶田さんの研究は、宇宙に存在する最も基本的な粒子の一つ、ニュートリノが変身する「振動」という現象を観測した。振動はニュートリノに質量がある証拠とされ、従来の理論に修正を迫る歴史的な成果だと評価された。

    ■    ■

 各地の土を採取し、おびただしい数の微生物を調べ上げ、医学史上の偉業につなげた大村さん。謎の多いニュートリノに迫り、宇宙の成り立ちの解明へ扉を開いた梶田さん。両氏の研究は、ジャンルは異なるが、どちらも日本の「お家芸」といえるものだ。

 日本は古くから発酵食品などに微生物を利用しており、大村さんの研究は、まさに伝統に基づく得意分野だ。

 梶田さんが取り組むニュートリノ研究も、02年に物理学賞を受けた恩師の小柴昌俊・東大特別栄誉教授の研究分野を発展させる形で、世界の最先端を走り続けている。中核を担う岐阜県飛騨市の実験施設「スーパーカミオカンデ」は、今や世界中から研究者が集まる聖地だ。

 受賞決定の会見で、「まねをしては人を超えられない」と独創性を強調した大村さん、自身の研究分野を「人類の知の地平線を拡大するようなもの」と表した梶田さん。それぞれの言葉から、真摯(しんし)な姿勢が伝わってくる。

    ■    ■

 01年以降、自然科学系ノーベル賞の日本人受賞は15人になった。科学技術立国・日本の底力を発揮したが、現在の大学の研究環境をみると総じて恵まれているとは言い難い。予算の削減で短期間で研究成果が求められる風潮が強まり、若手研究者が育ちにくい環境にある。

 今回の受賞を機に、科学に興味を持った子どもらも少なくないはずだ。せっかくの科学力を将来につなげられるよう、中長期的な視野での環境づくりをいま一度求めたい。