南シナ海で中国が岩礁を埋め立てて造った人工島をめぐり、米国と中国の緊張感が高まっている。

 米海軍のイージス駆逐艦が「航行の自由」に基づき、南シナ海の南沙諸島にある人工島周辺12カイリ(約22キロ)で、中国が主張する「領海」内を通過したからだ。

 問題の根本には、中国が岩礁を埋め立てて3千メートル級滑走路の建設を進め、一方的に「現状変更」して「領海」としていることにある。

 「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約によると、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう」とある。

 この定義からすると、スービ礁を埋め立てた人工島は、埋め立て前は満潮になると水没する暗礁で、島ではない。条約では人工島や構造物は「島の地位」がなく、周辺海域は「領海」ではない。

 条約には「すべての国の船舶は、領海において無害通行権を有する」ともある。船舶が害を与えない限り、自由に航海できる。だが、米国にはいたずらに挑発と受け取られるような行動は避けてもらいたい。対立がエスカレートすれば偶発的な事件が軍事的衝突に発展しかねないからだ。

 中国は「九段線」と呼ばれる9本の独自の境界線を設定し、南シナ海の大半に管轄権を持つと言っている。

 ベトナムやフィリピン、マレーシアなどと領有権の争いがある南沙諸島で大国の中国が岩礁や暗礁を次々埋め立て、力でねじ伏せるようなやり方は地域の安定性を損なう。国際社会の理解を得ることはとてもできないだろう。

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 米国の「自由航行」には伏線がある。9月にワシントンで開かれた米中首脳会談で、オバマ大統領は習近平国家主席に、岩礁埋め立てに「重大な懸念」を表明するとともに、「航行の自由」を行使し続けることを伝えた。

 これに対し、習氏は「中国固有の領土だ」と一歩も譲らず、平行線に終わった。

 今回、米国は決裂した会談内容を実行に移す強い姿勢を示したといえる。

 中国は「領海」侵犯だ、と米国を非難した。米国は艦船の航行を今後とも継続していく考えで、中国は対抗措置を取る構えだ。

 懸念されるのは中国人民解放軍幹部が5月に岩礁埋め立てを「軍事、防衛上の必要なニーズを満たすため」と軍事目的が含まれていることをあけすけに語っていることだ。

 中国のことしの国防白書でも、米艦船などを念頭に「海上での軍事衝突に備える」方針を表明している。

 一触即発の事態に陥らないために、米中両国に自制的な行動を求めたい。対話による解決の道も探ってほしい。

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 海上における危機管理メカニズムの構築を急ぐ必要がある。中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は2002年に武力に頼らず平和的な解決を目指す「南シナ海行動宣言」に調印したが、法的拘束力を持つ「行動規範」の策定は停滞しているのが現状だ。

 南シナ海を「衝突の海」にしてはならない。