民俗と美術工芸の視点で20年以上、沖縄の祭祀(さいし)や信仰を巡る「もの」の研究を続けてきた稲福政斉さんが今月、「御願の道具と供えもの事典」(ボーダーインク刊)を出版した。離島を含む県内各地の伝統的な行事で使われる、道具や供え物の由来、意味、現代的な変化を、写真も豊富に使いながらまとめた。

箱型のビンシ−の代用とされる「仮のビンシ−」。箱型が普及する以前からあり、本来の姿に近いという(稲福さん提供)

沖縄の年中行事やしきたりに欠かせない道具や供え物の手引書を出版した稲福政斉さん=糸満市内

箱型のビンシ−の代用とされる「仮のビンシ−」。箱型が普及する以前からあり、本来の姿に近いという(稲福さん提供) 沖縄の年中行事やしきたりに欠かせない道具や供え物の手引書を出版した稲福政斉さん=糸満市内

 近年は行事や供え物を簡素化する家庭も増えている。稲福さんは「祖先や神仏を敬う目に見えない『心』をかたちに表したのが道具や供え物。本来の意味やかたちを知るための手引書としても活用してほしい」と話した。

 稲福さんによると、沖縄の代表的な供え物の一つ「ジューバク」は、器の「重箱」がそのまま供え物の呼び名になった。「法事もお祝いも料理自体はあまり変わらず、色や盛り付け方で区別される。昔の人のクヮッチー(ごちそう)を詰め合わせたもので、料理ひとつひとつにさほど意味はないようだ」と稲福さん。

 久米村(現在の那覇市久米一帯)には豚、鶏、魚の3種をゆでたり蒸したりした中国由来の「ウサンミ(御三味)」という供え物があり、ジューバクはこれが沖縄で広まる過程で、それぞれの地域の食文化や人々の嗜好(しこう)に合わせ、「大きく変容したものと考えられる」と解説する。

 御願の供え物をひとまとめに収納した箱型の「ビンシー」は、もともと庶民向けの簡易な御願道具だったが、「近頃では格の高い正式な道具と捉える傾向が強い」と指摘。現在ではビンシーの代用品として「仮のビンシー」と呼ばれる、膳の上に一対の酒瓶と盃(さかずき)、ハナグミ(米)などを載せたもののほうが、実は古くからの供え方で、「道具の格付けが昔と今では完全に入れ替わってしまった」とみる。

 稲福さんは自治体や公民館などの依頼を受け、年30回近く「ヒヌカン」や「供えもの」「年中行事」などをテーマに講演している。「近年の“スピリチュアルブーム”もあって、御願などのしきたりは若い世代を中心に再評価され、以前に比べ20〜30代の参加者も増えた」という。

 一方で、かつては行事の内容や時期、供え物の形式にも地域差がみられたが、御願を取り仕切る人の世代交代が進むにつれ、本来のかたちがあいまいになり、地域ごとの特色も薄らいできたと感じている。講演会で参加者の質問や疑問に耳を傾けると、「根拠のない俗説に惑わされ、やらなくていいことまでやって負担を感じていたり、逆に何でも簡素化するのが先進的でいいことだと主張する人もいたり」。

 道具や供え物の持つ意味や、現在の形になるまでの変化を知ることで、「させられているという感覚ではなく、納得して心を込めて行うための手助けとなればうれしい」と期待した。